黒木 修一
はじめに
施設キュウリにおける病害虫の総合防除について、8号では害虫類対策(1)、10号では病害対策を紹介し(2)、前報では線虫類に対する物理的・耕種的防除法を紹介した(3)。本報では薬剤を用いた線虫防除対策を紹介する。
農薬を効果的に使用するために
薬剤で地上部の病害虫を防除するとき、使用する薬剤が防除対象の作物にどれくらい付着しているのか(被覆面積率が高いのか)は防除効果に影響する。土壌中の線虫に対して使用する薬剤も同じように考えることが必要で、薬剤がどれくらい土壌中に分散しているかが重要となる。土壌中の線虫は寄主植物の根域に広く分布するため、深根性の作物であれば線虫も土壌深くまで存在する。作物の根域にムラ無く薬剤を分散させ、小さな線虫が必ず薬剤に接触するように分布させることは容易ではない。しかし、十分な防除効果を得るためには適切に薬剤を処理する必要がある。
粒剤の土壌混和
「粒剤」は、そのまま使用するため、取り扱いが容易で広く普及している。では、その粒剤をどのように土壌混和するか。土壌表面に粒剤を散布し、土壌混和せずそのまま畝立てしたときの畝の断面を見ると、もとの地表の位置がわかる(図1)。当然ながら、もとの地面より下には粒剤は存在せず、通路となった畝間の土壌にも殺線虫剤は存在しない。こうなると、殺線虫剤の存在しない土壌で線虫が防除されることは無く、薬剤の防除効果を大きく損ねることになる。そのため、粒剤を圃場全面に施用して土壌混和し、その後に畝立てをしなければならない。しかし、全面土壌混和を繰り返すと、粒剤は軽いので土壌表面近くに多く分布することになり、これも防除効果を低減させてしまう。粒剤を土壌表面に散布後は1回全面土壌混和を行い、そして畝立てするくらいが良い。
土壌くん蒸剤の利用
クロルピクリンやD-D剤などの土壌くん蒸剤は、液体であるがガス圧が高く、土壌に注入すると土壌粒子の間にガスが広がり線虫を防除する。しかし、これら土壌くん蒸剤を使用してもガスが届かないところの線虫は防除できない(図2)。土中のガスの拡散を阻害するものは、固く締まった土壌や過剰な土壌水分である。もちろん、土壌の物理性や水分が好適条件であっても、ガスが深層部に無限に到達することはなく、土壌深層部までくん蒸したい場合は、土壌深層消毒機を用いてガスの深層処理を行う(図2)。それでもガスが届かない深層部は、緑肥を用いないと線虫密度を低減できない。また、例えばD-D剤であれば、30 cm間隔で千鳥状に点注していくが、農薬登録の使用量はキュウリで15~20 L/10 aであり、1穴当たりの薬量は1.5~2 mlとなる。この場合、10 a当たり1万箇所に点注することになるため、数カ所くらいは機械から薬剤がしっかり吐出しない、もしくは十分に拡散しない場所が生じると考えた方がよい。このため、土壌くん蒸剤の点注後に数日おいて耕起してガス抜きをするが、この耕起と同時に粒剤を施用して土壌混和し、ガスが広がらなかった部位にも隈なく粒剤を分散させることで、線虫の被害発生リスクを低減できる。
また、土壌くん蒸剤を処理した後にはビニールなどで被覆をするが、ガスが透過しにくい難透過性フィルム(図3)を使うとガスの揮散を防ぎ、防除効果の安定が期待できる。
栽培終了時に行う薬剤処理
例えば施設キュウリ栽培では、一般的には前作終了後、次の作物を定植する前に薬剤で土壌消毒する。近年は、前作の終了時に薬剤を施用する方法もある。カーバムナトリウム塩液剤(商品名:キルパー)は、ガス圧が高い土壌くん蒸剤ではあるが、同時に水溶性が高い性質がある。このため、土壌に注入すると、水分を多く含む作物残さの中にも侵入し、残さ内の病害虫を防除できる。この性質を利用し、作物の栽培終了時に「古株枯死」として、かん水チューブで所定量を潅注すると、根が薬剤を吸収し、作物が枯死するだけでなく根の中の線虫が防除できる(4)。
おわりに
線虫類は薬剤だけで防除しようと考えず、薬剤は物理的・耕種的防除法を補完するものとして位置付けたい。したがって、物理的・耕種的防除法で効果が不十分なところはどこかを考え、薬剤を正しい方法で使用することが重要である。