「古株枯死」とは?〜栽培の上手な終わらせかた〜

ZMクロッププロテクション㈱
野仲 信行

はじめに

「古株枯死」という言葉をご存じだろうか? 何やら妙な四文字熟語のようであるが、れっきとした農薬の使用目的なのである。作物栽培はうまくできてもできなくてもいつか終わらせ、次の作(次作)のための準備に入らなければならない。この後片づけは面倒な作業であるが、ひとつ間違えると次作に悪影響を与える恐れのある大切な作業でもある。「古株枯死」はその助けになる。

古株枯死・蔓延防止の農薬

現在の作(前作)で病害虫が発生し手に負えなくなった場合、その病害虫を次作に持ち越したり、周辺に拡散したくはない。そのためにはどうしたらいいのだろうか?そこで、作付け終了する作物を枯死(古株枯死)させ、同時にその作物に寄生した病害虫を防除し蔓延防止を行うことで、圃場を「リセット」する農薬がある。

使用する農薬は「カーバムナトリウム塩液剤(商品名:キルパー)」と呼ばれる。この農薬は土に触れると分解し、メチルイソチオシアネート(MITC)になる。MITCは植物、病原菌、害虫を枯死・駆除する効果があり、ガスまたは水に溶けた形で作用する。この農薬はもともと、土壌病害虫やセンチュウを駆除するために用いられていた。2000年代後半に高知のニラ生産地で問題となったネダニ駆除のために、前作の終了後に使用したところ、ニラ植物体を枯死させ、ネダニの蔓延を防止する効果があることが分かり開発につながった。その後、キュウリなど果菜類の害虫駆除の効果も確認され、2014年に古株枯死のための使用が認可された(表)。前作の作物を枯死させることで、撤去作業が軽減できる利点がある。

  • 表. キルパーの用途概略(2022年12月現在)
  • 図1. 高知県トルコギキョウ斑点病発生圃場
    A. 処理前
    B. 処理2週間後
    C. 処理2週間後の枯死株
  • 図2. 埼玉県キュウリアザミウマ類発生圃場
    A. 処理前
    B. 処理5日後

農薬の使用方法と注意点

キルパーは、施設内で潅水や液肥の施用に使っている潅水チューブを利用した処理が最も簡便である。タンクや液肥混入器でキルパー原液を50~100倍に希釈し、土壌に施用すればよい。最後にチューブなどを真水でよく洗浄しないと、次作作物に害を及ぼす。土壌に施用されたキルパー剤が土壌中で分解されてできるMITC水溶液が作物の根から吸収され、作物を茎の内部から枯死させる。同時に土壌表面からMITCがガス化し、施設内の作物を枯死させ、害虫などを駆除する。作物が枯死する速度は環境条件に大きく依存する。一般には処理2日後から枯れ始めるが、雨天・土壌水分過多の状態では数日を要する。これは作物がMITCを根から吸収するのに時間がかかるなどのためである。

使用できる作物は、キルパーの缶の登録ラベルに記載されている必要がある。このとき、「古株枯死」として使用できる作物だけでなく、次作についても使用登録されていなければならないので注意が必要である。使用時期も重要である。6~8月であれば問題は少ないが、低温条件では作物のMITCの吸収・分解に時間がかかるため、処理後から次作の作付けまで十分な時間が必要である。また、キルパーは劇物・毒物ではないが、分解したMITCは人体にも影響があるので、施設栽培の場合には、薬液処理に当たって施設を密閉し、処理後は3日程度施設に入らないように注意する。MITCガス発生中に施設内での作業(キルパーの薬液追加、灌水チューブの切替、その他何らかのトラブル対応)が必要な場合は、吸収缶(活性炭入り)付き全面面体防護マスク、不浸透性手袋、ゴム長靴、不浸透性防除衣などを着用し、速やかに作業を終えて退室する。

キルパー液剤は後片付けの作業軽減、害虫の蔓延防止など利点もある一方で、失敗の事例もある。初めて使用する場合は、都道府県病害虫防除所や植物医師®にご相談頂きたい。

  • 図3. キルパー缶
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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)