養液栽培トマトの根部病害を防除する培養液の殺菌技術

一般社団法人三重県植物防疫協会
黒田 克利

はじめに

トマトの養液栽培は土耕栽培に比べ、施設内の環境制御や衛生管理をしやすいため、クリーンな植物工場のイメージがあり、植物病も発生しないと考えている方が多いのではないだろうか。確かに養液栽培は、地上部の茎葉に発生する植物病に対して病原菌の感染を抑える温度や湿度を設定しやすい。しかし、ピシウム菌による根腐病(1)やフザリウム菌による根腐萎凋病のようなカビによる植物病のほか、バクテリアによる青枯病など、培養液を介してまん延する根部の植物病が問題になりやすい。これらの植物病は土耕栽培に比べ、培養液を通じて急速にまん延するため、大きな被害を招く。本稿ではトマトの養液栽培における根腐萎凋病と青枯病を例に培養液の殺菌技術を紹介する。

養液栽培とは

養液栽培とは、土を使わずに、肥料を水に溶かした培養液で作物を栽培する方法で、栽培方式には以下のようなものがある(2)。

①水耕:培地を使わずに、根を培養液に浸して栽培する方法。
②固形培地耕:ロックウール、ヤシ殻、ピートモス、砂などを培地にして栽培する方法。
③噴霧耕:根に培養液を霧状に噴霧して栽培する方法。
培養液の与え方には、循環式(培養液を循環させる方法)と非循環式(培養液をかけ流しする方法)がある。

トマト根腐萎凋病

病原菌はカビの一種フザリウム菌(Fusarium oxysporum f.sp. radicis-lycopersici)で、土壌に生息するため、土耕栽培に近い固形培地耕のロックウール栽培で発生が多く、水耕では少ない(図1)(3)。

  • 図1. トマト根腐萎凋病の発病状況
    A:ロックウール栽培での発病
    B:茎地際部(維管束)の褐変症状
    C:枯死株の地際部に繁殖した病原菌

トマト青枯病

バクテリアの一種であるラルストニア菌(Ralstonia solanacearum)によって起こる。トマトの維管束に侵入・増殖し、道管をつまらせ萎(しお)れを引き起こす(図2)。診断は、切断した茎を水に浸す検査が簡便である。感染していると、茎切断面から乳白色の細菌が糸を引くように流れ出る(図3)。養液栽培では、固形培地耕、水耕のいずれでも発生するが、水耕の方が発生しやすい。

  • 図2. トマト青枯病による激しい萎れ症状
  • 図3. トマト青枯病の簡易診断法

培養液の殺菌技術

1)紫外線
殺菌灯の(UVCランプ、波長253.7nm)を培養液に照射して殺菌する。殺菌力が高く養液栽培装置に組み込みやすい。ただ、肥料濃度などによる培養液の濁りにより殺菌力が低下するほか、肥料成分の一部(鉄、マンガン)が紫外線で酸化して沈殿し、作物の養分欠乏症につながる恐れがある(5)。最も普及している技術であり、培養液の再利用する栽培方式に組み込まれている。

2)オゾン
培養液にオゾンガスを送り込む方法と、オゾン水で殺菌する方法がある。紫外線殺菌と同様に、殺菌力が高く、養液栽培装置に組み込みやすい。健康への影響からオゾン濃度は0.1ppm以下と定められており、装置からのオゾンガスの漏れを基準値以下にする必要がある。また、オゾンも肥料成分の一部(鉄、マンガン)を酸化するので、養分欠乏症に注意する必要がある。実用は高いが導入事例は少ない。

3)ろ過
培養液を砂やフィルターなどを使ってろ過し除菌する方法で、培養液量が少ない場合に便利である。フィルターの目を細かくすると除菌能力が向上するが、培養液中の塵や植物由来の有機物などで目詰まりしやすい。固形培地耕や噴霧耕の培養液を再利用するシステムが市販されている(6)。

4)熱
培養液を熱殺菌する方法で、加熱槽と冷却槽で構成される。これは、肥料成分を損なわない利点がある。しかし、処理能力が低いため、培養液量が多い栽培方式には向かない。養液栽培用資材である定植用パネル(発泡スチロール製)に病原菌の胞子が付着して病気の発生源となるが、この資材の温湯殺菌装置が市販されており(7)、トマト栽培での導入は少ないものの、ミツバ栽培で多く用いられている。
なお、農薬を培養液に投入して殺菌する方法は、農薬の作物残留の問題が大きく、登録が進んでいない。

おわりに

養液栽培が我が国に普及した当初は、土耕栽培で問題となる根部病害をはじめとする連作障害を回避する技術として期待されたが、実際は根部病害が発生した。対策の基本は、養液栽培施設内に、病原菌を持ち込まないことであり、以下の注意が必要である。

(a)健全苗の導入
汚染した苗を持ち込まないようにする。

(b)培養液作成の水源
病原菌に汚染されていない水源を確保する。

(c)ほ場管理者の根部病害の知識と対応
養液栽培は、法人の生産者が多いが、雇用者を含めて根部病害の知識を習得し、病原菌を施設内に持ち込まないよう心がける必要がある。

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ISSN 2758-5212 (online)