池田 信
はじめに
ネギの植物病を畑で見分けることができれば、迅速に防除対策を立てることができる。しかし、畑で植物病を観察していると、ネットの検索画像や図鑑の写真にはない病斑を目にして診断に困ることがある。土寄せで遮光する根深ネギ(白ネギ)の場合、中心葉を3~4枚つけて出荷するため、葉枯病を的確に診断し予防的に農薬を散布して出荷葉に“黄色斑紋病斑”を形成させないことが重要になる。ここでは、北海道の根深ネギにおいて病斑の識別が難しいとされる黒斑病と葉枯病を例に、植物病の種類を見分けるコツを解説する。
畑全体を観察して主要な病気を把握する
ネギに異常症状が発生している畑では、はじめに畑全体の発生状況を観察することが重要である。具体的には、全体に発生している場合には均一か、点々か、あるいは坪状かなどを確認し、病害虫による生物的要因か否かを判断する(1)。
次に、植物病と判断した場合、ネギでは複数の病気が混発していることが多いので、主に発生している植物病が何かを判断する。
葉枯病による“褐色楕円形病斑”が認められた場合には、葉枯病が単独感染して葉に多数の“褐色楕円形病斑”を形成することはまれで、生理的な葉先枯れ、べと病、さび病などを併発していることが多い。“褐色楕円形病斑”のほとんどは、生理的に葉先が枯れた部分や、べと病で枯死した部分に複数観察される(図1)。
病気の発病部位が手掛かり
ネギの異常症状を診断する際には、地上部の葉だけでなく、葉鞘(ようしょう:土中の白根)・茎盤(けいばん:白根先端の根が付いている部分)・根などの地下部も含め、株全体を観察し、どの部位が発病の起点になっているかを確認する(2)。これにより、発生している病気の種類を絞り込むことができる。
黒斑病と葉枯病による“褐色楕円形病斑”は、外葉のほぼ伸長を終えた葉の先端部から中心部に発生することが多い。一方、葉枯病による“黄色斑紋病斑”は、葉鞘から抽出して間もない中心葉に発生が限られる(図2)。なお、葉枯病による“褐色楕円形病斑”の発生だけでは減収することはないが、同病斑から飛散した胞子によって中心葉に生じる“黄色斑紋病斑”は商品価値を低下させ減収となる(図3)。
初期や中期病斑からも病気を判断
ネギの葉枯れ性の病気が発生している畑では、発病して間もない初期病斑や発病が進んだ中期病斑なども混在していることが多い。
このため畑で診断する場合には病害虫図鑑などの画像との絵合わせで一致しない病斑にしばしば出会う。これは図鑑などではスペースの制約などから、本文で初期や中期病斑の記載を省略したり、末期病斑の写真や図のみが掲載されていることが多いためと思われる。
したがって、畑で初期や中期病斑を見極めるためには、診断者が病害虫図鑑の本文でこれらの内容を確認するとともに、発生している病斑の変化を観察・記録することが重要になる。参考までに黒斑病の病斑の変化を初期、中期、末期病斑に分けて示した(図4)。
栽培環境から病気を予測
北海道内で発生している中心葉の“黄色斑紋病斑”(図3)はすべて、葉枯病菌によるものであることが知られている。このことから、気温経過、ネギ葉の枯死部の多少、ネギの生育ステージなどの栽培環境から葉枯病による“黄色斑紋病斑”の発生を総合的に予測することができる。
発病適温は黒斑病では24~27℃(3)であり、葉枯病の“黄色斑紋病斑”では15~20℃(4)と異なる。したがって、25℃前後では黒斑病菌、20℃以下では葉枯病菌がそれぞれ優占することになる。
また、葉枯病の“黄色斑紋病斑”が発生する畑では、葉に枯死部が多く、その伝染源となる“褐色楕円形病斑”も多数存在している。
このような環境下で、ネギの茎葉が繁茂し風通しも悪くなっている場合には、中心葉に“黄色斑紋病斑”を生じるリスクが高いので、“褐色楕円形病斑”から胞子が飛散する前に登録のある殺菌剤を予防的に散布する必要がある。
引用文献
- 栢森美如(2024)「ワンランク上の診断依頼をしよう2 ~問診で必要な項目~」i Plant 2(7).
- 難波成任 監修・執筆(2022)「植物医科学」養賢堂 p.130.
- JA全農いばらき(2014)「営農NEWS」第2270号.
- 三澤知央(2008)「ネギ葉枯病の発生生態と総合防除対策」農研機構 北海道農業研究成果情報.