ヒルガオハモグリガがサツマイモにやってきた!

レター
                                                             
東京大学大学院農学生命科学研究科
渡邊 健

江戸時代に、儒学・蘭学者として知られた青木昆陽は、サツマイモは栽培しやすく台風や干ばつにも強いことから飢饉対策の「救荒作物」として優れていることをサツマイモの栽培・貯蔵法の書「蕃藷考(ばんしょこう)」にまとめた。享保の大飢饉以降、サツマイモの国内普及が進み、飢饉の度に多くの人々を救った(1)。変わって、現代のサツマイモは「飢えをしのぐ食糧」ではなくなり、「スイーツ」にも位置づけられる嗜好品となったため、外観や食味ともに高品質なものが求められる。
近年は気候変動による温暖化で多くの害虫が北上傾向にあり、サツマイモは、いまや江戸時代のように無防除で栽培しても収量が確保されるような「救荒作物」ではなくなってしまったが、害虫もやはり甘く美味しく進化した品種を好むのであろうか?
本報では、茨城県で発生したヒルガオハモグリガについて紹介する。ヒルガオハモグリガは、チョウ目ヒルガオハモグリガ科の昆虫(ガ)で、サツマイモの害虫として知られる。国内では本州、四国、九州や沖縄、海外では北米、ヨーロッパ、オーストラリアやインドなどに広く分布している(2)。我が国では、サツマイモ生産量の多い南九州でとくに問題となっていた(3)。

茨城県におけるヒルガオハモグリガの被害

筆者は関東地方のサツマイモ大産地である茨城県に在住しているが、これまでこの地域で本害虫による被害は記憶になかった。ところが、2022年8月中旬に茨城県鉾田市や行方市の複数のサツマイモ畑で突如発生し、生産者の間で話題となった。当時、普及指導員が生産者から聞き取りしたところ、「ヒルガオハモグリガ様の被害は、程度の差こそあるものの、以前から見られた」とのことであったが、公的機関等による正式な害虫の確認はない。残念ながら、筆者は2022年の被害状況は見ていないが、茨城県で本害虫による被害が表面化したのは、これが初めてと思われる。本害虫は国内に広く分布する(2)ことから茨城県病害虫防除所では県内で未発生の病害虫が発見された時などに発表する「特殊報」は発表していない。
筆者は2024年8月下旬〜9月上旬にかけて、かすみがうら市のサツマイモ畑全面の葉が茶色に変色しているという情報をもとに調査に行き、本害虫による被害を確認することとなった。

被害状況

現地を訪れたときは、降雨後曇天のタイミングであった。サツマイモ畑は全体が枯れたように見えた(図1)。被害葉は、ナカジロシタバやハスモンヨトウ等のチョウ目昆虫により葉脈や葉柄を残して大きく食害されたものに加え、ヒルガオハモグリガにより葉内が食害されて表皮のみが残って半透明になった部分が多く混在していた(図2,3)。被害葉の表面には多くの糸がはられ、ヒルガオハモグリガの幼虫や蛹が多数観察された(図3,4,5)。幼虫は葉内に潜行し、表皮を残して葉肉を摂食するため、食害部は半透明となる。幼虫は糞を食入孔から外に排出するので、葉面上に糞が黒い塊となっていた(図6)。成虫(図7)もその畑で多数観察された。

  • 図1.ヒルガオハモグリガ被害圃場

 

  • 図2.葉の食害状況
  • 図3.被害葉(裏面)
  • 図4.葉上を移動する幼虫
  • 図5.蛹
  • 図6.葉内に潜行し、葉面に糞を排出する幼虫
  • 図7.成虫

防除対策

聞き取り調査をしたところ、無農薬栽培であった。筆者はこの畑に近い試験圃場を管理しているが、そこではヒルガオハモグリガの発生はなかった。近年、ナカジロシタバ対策でドローンを用いた委託防除が増加しており、筆者の試験圃場も2024年は6月と8月に2回ドローン防除を行ったため、ヒルガオハモグリガも抑えられたものと考えている。したがって、ナカジロシタバ等のチョウ目害虫をきちんと防除すれば、ヒルガオハモグリガも同時に防除(3)できるようである。
本害虫は成虫で越冬し、翌春、ヒルガオ科の植物上で生活してからサツマイモに移動する(3)と考えられるため、畑での観察を慎重に行い、見つけたら的確に防除する必要がある。

このページの先頭へ戻る
ISSN 2758-5212 (online)