アブラナ科作物に共通の病害「根こぶ病」
「根こぶ病」は、アブラナ科作物に共通の土壌伝染性の植物病である。原因は根こぶ病菌に感染したことによるもので、その名のとおり、根にこぶを形成する(図2)ため、養水分を吸収できなくなり、好天時には萎(しお)れが発生する(1)。のちに生育不良となり、症状が激しい場合には枯死する。根こぶ病菌は気温が9~30℃で活発に増殖するが、発病適温は18~25℃とされる。このため食用ナバナでは、気温が高く、なおかつ台風などで過湿条件になると発病しやすく、栽培開始期の9~10月に特に問題となる。
食用ナバナは栽培期間が長く、早生から晩生まで多くの品種が存在する。「根こぶ病」に強い抵抗性品種の種子が種苗メーカーにより販売されており、対策は万全かに思われる。しかし、根こぶ病菌はハクサイの品種を使った発病試験により、4つのグループ(以下、G1~G4)に分類され(2)、抵抗性品種であっても根こぶ病菌の種類との組み合わせによっては感染する場合がある(3)。このため、発病した圃場では、根こぶ病菌の種類を特定したうえで、適切な抵抗性品種を選択する必要がある。千葉県で食用ナバナに発生している根こぶ病菌はG2とG4で(4)、抵抗性品種がわずか1品種しかないG2の分布拡大には特に注視が必要である。
温度に対する根こぶ病菌の反応
根こぶ病菌が拡大する要因として、温暖化の影響はあるのだろうか?そこで、G2とG4の温度に対する反応を調べてみた(5)。G2とG4の根こぶ病菌の濃度を2種類に調整して混ぜた培土に、感受性品種であるナバナ「花飾り」(サカタのタネ(株))を播種し、18℃、20℃、23℃で栽培し、発病の程度を調査した。その結果、いずれの温度でもG2よりもG4の方が発病は激しかったことから、感受性品種を栽培する圃場でG2とG4が同時に発生したときには、G4が圃場に蔓延する(図3)。また、G2とG4のいずれも菌密度や温度が高いほど激しく発病し、特に温度が高いと菌密度の影響を受け、相乗的に発病することが分かった。ただ、G4は15℃の低温でも発病するため、G2に比べ発病期間が長くなる。
千葉県館山市の過去10年分の9月から12月の日平均気温を見てみる(図4)。9月の日平均気温は、2014年が22.4℃であったのに対し、2023年は26.7℃と緩やかながら上昇傾向で、根こぶ病の症状が激しくなる条件である。また、11月の日平均気温は、2014年が14.3℃であったのに対し、2023年は15.5℃と9月に比べると大きな変化はないが、2020年以降は15℃を超える年が増加している。現状では、ナバナ根こぶ病に対する温暖化の影響は顕著には認められないが、近い将来、さらに気温が上昇すれば、播種直後から激しく発病して収穫できなくなる圃場や、12月まで発病が長期化し、減収する圃場が出てくる可能性がある。したがって、土壌pHのコントロールや輪作の導入等により、今のうちから発病しにくい環境に整えることが必要である(6)。
引用文献
- 岸國平 編集(1998)「日本植物病害大辞典」全国農村教育協会 351pp.
- 田中秀平(2015) 「アブラナ科植物根こぶ病の病原性と病原力の多様性」植物防疫 69(10):625-629.
- 押切浩江ら(2014)「千葉県南房総地域における食用ナバナの根こぶ病菌の病原性分類と栽培品種の抵抗性」千葉県農林総合研究センター研究報告 6:1-6.
- 植松清次ら(2017)「千葉県における食用ナバナ等に発生する根こぶ病菌のレースの分布」関東東山病害虫研究会報 64:147.
- 久保周子ら(2022)「千葉県のナバナ圃場における根こぶ病菌のレース分布に及ぼす温度の影響」関東東山病害虫研究会報 69:27-29.
- 若山健二(2024)「アブラナ科野菜の脅威 根こぶ病 -2-(検査・防除法)」i Plant 2(8).