耐性菌はなぜ発生するのか? ~耐性菌出現を防ぐために~

株式会社クレハ
竪石 秀明

はじめに

同じ農薬を連用していると病害虫や雑草(病因)の防除効果が低下してくることがある。このような場合、農薬に耐性の病害虫や雑草の発生が疑われる。ここでは農薬のなかでもとくに殺菌剤が防除対象とするカビ(糸状菌)の耐性について説明したい。

耐性菌とは

殺菌剤の耐性菌とは、特定の殺菌剤に対する感受性が低下し(防除されにくくなり)、適切な濃度で施用しても防除効果が低下する病原菌のことである。耐性菌の発生は、同じ効果を持つ殺菌剤の連用により病原菌が変異して耐性菌が「発生」するのではなく、連用により元々低率に存在していた耐性菌の存在比率が高まり「顕在化」する現象である(図1)。(耐性菌に関する全般的な情報は(1)を参照。)

  • 図1.耐性菌の増加イメージ

病原菌が薬剤耐性化するしくみ

近年利用される浸透移行性殺菌剤(散布され付着した部位から植物全体に移動してゆく性質の殺菌剤)は病原菌が生育したり、病原性を発揮するのに重要な働きをするタンパク質・酵素などに結合し阻害することにより防除効果を示す。自然界には元々特定の殺菌剤に感受性が低い菌株が極めてわずかに存在しており、上述のようにそれが顕在化して耐性菌が発生する。その仕組みは:①標的タンパクの遺伝子の変異により作用点の形状が変化して薬剤が結合できなくなる、②標的タンパクの遺伝子の発現量が増加し、標的タンパクの量が増えることにより実用濃度では効かなくなる、③薬剤の排出ポンプが存在し、これにより細胞内に入った薬剤が細胞外へ排出される、④細胞内での薬剤の分解・解毒、などがあげられる(図2)。

  • 図2.病原菌の薬剤耐性化機構

耐性菌を防ぐには

耐性菌の発生を防ぐため、次のような防除方法を組み合わせることが重要である(2,4)。
① 殺菌剤のラベルを遵守して最低減の量・回数使用する。用法・用量を守る。
② 異なる作用性の殺菌剤をローテーションして散布する:異なる作用機構を持つ殺菌剤を交互に使用することで、耐性菌の発生を抑えることができる。また、同じ作用性の殺菌剤の使用回数を減らす。
③ 化学農薬以外の防除方法と組み合わせる。
 ・ 耕種的防除:病害が出にくい栽培方法や耐病性品種を使用。
 ・ 生物的防除:拮抗微生物(生物農薬)や天敵の利用。
 ・ 物理的防除:熱や光を利用した防除技術。

薬剤の作用性の分類:FRACコードの活用

防除作業を行う上で殺菌剤の作用性を理解することは重要であるが、農薬使用者が多くの殺菌剤の作用性を理解することは難しい。そこでFRACコードの活用をお勧めしたい。FRACコードは殺菌剤の作用機構を分類したもので同じ作用性の殺菌剤の見分け適切な殺菌剤の選択に役立つ。例えば「1」はベノミル(ベンレート)などの細胞骨格形成に重要なチューブリン阻害、「11」はアゾキシストロビン(ストロビー)などの呼吸鎖複合体ⅢQo部位阻害剤(QoI剤)である。最近では農薬のラベルにFRACコードが記載されているものがあり、メーカ-の技術資料にも記載されている(3)。

耐性菌の出やすい病原菌と殺菌剤

また、耐性菌が発生しやすい殺菌剤(グループ)と耐性化しやすい病原菌があるので注意を要する。例えばPA剤(フェニルアミド系、メタラキシルなど)、QoI剤(呼吸系複合体Ⅲ阻害剤、アゾキシストロビンなど)は耐性化リスクが高く、病原菌では灰色かび病菌、うどんこ病類などは耐性菌が出やすいとされている(5)。 

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ISSN 2758-5212 (online)