ネギネクロバネキノコバエ ~生態と防除、拡がりについて~

埼玉県農業技術研究センター 岩瀬 亮三郎
埼玉県農業技術研究センター 浅野 亘
埼玉県茶業研究所 小俣 良介*

*責任著者

はじめに

ネギネクロバネキノコバエ(以下ネギネ)はこれまで日本でみられなかった害虫で、2014年に埼玉県北部の根深ネギで初確認され、その後ニンジンやニラでも被害が発生した(1,2,3)。そこで、国、県、大学が連携した研究が行われ、ネギネの生態的特徴が明らかになった。そして、有効な農薬が登録されたことにより、防除方法が確立した(4)。そのため、現在は深刻な被害はみられなくなり、発生から10年経過した現在、発生範囲は埼玉県と群馬県の一部に限られている。本稿ではその生態と根深ネギでの防除対策について紹介する。

生態

ネギネの成虫は黒い蚊のような形態をしており(図1)、食害はせずあまり飛ぶこともない。現場では形態の似たタマバエ類やユスリカ類等と混同しやすいが、あまり飛翔しないことに加え、顕微鏡下で観察すると、ネギネの触角は四角い節が連結して出来ているのに対し、タマバエ類では数珠状、ユスリカ類では毛が多数あるなど、形態が明らかに異なり区別できる(図2)。一方、幼虫は黒い頭を持つ細長いウジ虫のような形態をしており、ネギ等の地下部を集団で食害することが多く、体長は最大6mmとなる(図3)。ネギでは近縁種のチバクロバネキノコバエやジャガイモクロバネキノコバエの幼虫も発生するが、ネギネの様なはっきりとした食害痕は生じない。これらの種は、顕微鏡下で幼虫頭部の形状を比較することで判別できる(5)。また、飼育環境があれば羽化させて成虫を比較すると、平均棍(翅の付け根付近にある器官)の色が異なるため顕微鏡下で容易に判別できる(5)。
ほ場に黄色粘着板を設置するとネギネ成虫が捕殺され、発生状況を把握することが出来る。しかし、ネギネ以外の虫も多数付着し形態が類似したものも多いため、顕微鏡下で形態を判別しながら計数する必要がある。2017~2020年に黄色粘着板による調査を行った結果、埼玉北部の露地ほ場で成虫がみられるのは3月中旬から12月上旬までで、年間6~7世代が発生する(図4)。高温に弱く夏に発生量は少なくなるが、9月以降に気温が下がってくると急増する。冬になると、地下部に生息する幼虫がそのまま越冬し、3月中旬以降に羽化する(6)。

  • 図1.ネギネ成虫(左:雌、右:雄)
    文献5より転載
  • 図2.ネギほ場の黄色粘着板に捕殺されたネギネ雄成虫(上)、タマバエの一種(中)、ユスリカの一種(下)の触角
  • 図3.ネギを食害する幼虫
    文献5より転載
  • 図4.露地ほ場におけるネギネ成虫の発生消長(2018~2019年)
    文献5を一部改変

防除対策

被害発生地域においては、成虫発生期間中に化学薬剤を中心とした防除を行う。ネギほ場では図2のようにネギネ成虫に類似した虫がみられ、チバクロバネキノコバエ等の幼虫がネギに寄生していることもあるため、未発生地域で疑わしい被害が発生した場合には関係機関に相談する。
(1)薬剤による防除
成虫が多くみられるのは5、6月と9月以降であるが、それ以外の成虫発生期間中も防除が必要である。定植時はテフルトリン粒剤等を施用し、散布剤を用いる際は地下部の幼虫に届くよう株元にしっかりと掛ける。県内主要作型である秋冬ネギの8月下旬頃は、本格的な土寄せ作業前であるとともにネギネが急増する前でもあるため(図4)、防除上重要な時期となる。この時期にジノテフラン顆粒水溶剤の株元灌注(1000L/10a)やジノテフラン粒剤の株元散布を行うと、薬剤が地下部に十分届き防除効果が高い(6)。
(2)その他の対策
幼虫は土壌の多湿条件を好むので、明渠を設置するなど排水対策をしっかりと行う。また、出荷調製時の残渣や、収穫後にほ場に残ったネギに幼虫がみられる場合は、カーバムナトリウム塩液剤40ml/㎡を10倍程度に希釈し、高さ40㎝程度以下に集積した残渣の上から散布してビニール被覆する(図5)。冬でも数日で十分な殺虫効果が得られるので、ビニールを除去して残渣をすき込む。または、石灰窒素60~100㎏/10aとともにほ場にすき込み腐熟を促進させ(4,6)、その場合は窒素成分が残留することがあるので、次作の作付け前に土壌診断を行う。

  • 図5.カーバムナトリウム塩液剤を使った残渣処理(左:残渣の集積 右:処理中)

発生範囲の拡大状況

ネギネ被害の初確認から現在(2024年3月)までほぼ10年が経過したものの、発生地域は依然として埼玉県と群馬県の一部に限られている。これは、ネギネ成虫は飛翔能力があまりなく寿命も短いため、自力や風に運ばれて大きく移動することがないためと考えられる(7)。ちなみに、2016~2020年の毎冬、県病害虫防除所においてネギネの発生範囲を調査した結果では、年間の拡大距離は1~2km程度であった(未公表)。ただし、農業機械に付着した土壌や、幼虫が寄生したネギが未発生地域に運ばれて新たな発生源となり、急速に拡大する可能性がある。そのため、発生地域においては被害防止とともに、トラクター等の洗浄徹底や出荷以外でネギを他地域に移動しないことなど、発生を拡大させないための対策も重要である。

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ISSN 2758-5212 (online)