トマト黄化病と生理障害の見分け方とその対策

植物医師
内橋 嘉一*

はじめに

トマト黄化病は、タバココナジラミやオンシツコナジラミなどのコナジラミ類が媒介するウイルス病である(1)。発病が少なければ収量や品質への大きな影響がない場合もあるが、発病株の処分や媒介虫の対策を怠ると発生が多くなり、品質・収量に影響が出てくる。
そのため、早い時期に病徴から診断することが必要である。本病の初期症状はマグネシウム欠乏症などの生理障害(2)と良く似ており、判別しにくい。そのうえ、簡易診断できるイムノストリップ等は市販されていないため、診断には専門家によるPCRを使った診断が必要になる。
そこで、本稿では兵庫県内で筆者が経験したトマト黄化病とそれに似た生理障害の診断事例を紹介し、その見分け方と対応策のポイントを示す。

事例1 早期診断により発病が抑えられた事例

8月定植の施設栽培トマトにおいて12月中旬頃から圃場内1カ所の数株でスポット的に中~下位葉に黄化が見られた。葉は斑状に黄化し、それが葉脈で区切られるもの(図1A)、葉脈に沿って黄化するもの(図1B)が見られた。これらの罹病葉を持ち帰りPCR診断したところ、黄化病と診断された。
そこで、現地圃場において、ハウスの開口部への防虫ネット展張、作付け前の媒介虫の防除対策および栽培中の適切な防除を行ったところ、コナジラミ類の密度は低く抑えられた。その結果、発病株の抜き取り処分は行われなかったが、春の収穫終了まで黄化病による大きな被害はなかった。

  • 図1.黄化病の初期症状
    A. 葉脈で区切られ斑状に黄化
    B. 葉脈に沿って黄化

事例2 診断が遅れたため発病が多発した事例

8月定植の養液栽培トマトで11月中旬から葉の黄化が認められた。依頼者は生長点の黄化を見て生理障害を疑い、培養液の更新や養液pHの確認を行った。しかし、症状は改善せず、4月には下位葉が激しく黄化した(図2)。
現地圃場では、ハウスの開口部に防虫ネットは張られているものの、常時販売を行うため、2作型が同一棟で栽培されていた。すなわち、媒介虫のコナジラミ類の防除対策が実施されていないか、不十分な状態で次作が定植されていた。先に植栽された畝では黄化が全体に拡がっていた(図2A)。また、多発畝に隣接する新たに植栽された畝では、全体に中下位葉から黄化が始まっており、拡大の様相ははっきりと確認できなかった。これらの症状の出ている葉を持ち帰りPCR診断したところ、黄化病と診断された。

  • 図2.黄化病の多発症状
    A. 下位葉から激しく黄色し、枯死
    B. 葉先から全体が黄化
    C. 斑状に黄化が進む

事例3 黄化病に似た生理障害の事例

8月定植の養液栽培ミニトマトで、11月上旬から葉脈間の壊死を伴う中下位葉の黄化が発生した(図3A,B)。11月下旬にはその症状が急激に拡大したことから、依頼者は黄化病を疑った。
現地圃場ではトマトとミニトマトが同一棟に植栽されており、ミニトマトのみにほぼ連続して30株程度症状が拡大していた。初期症状の葉脈間の黄化(図3C)は黄化病の初期症状にやや似ていたが、黄化部分と健全部分の境界が不明瞭であった。連続した株の中下位葉に一様に黄化が発生していたため、生理障害を疑い、依頼者から栽培管理を聞き取ると、トマトの吸水量に合わせて、ミニトマトにも同様のかん水が行われていた。このことから、トマトに合わせたかん水がミニトマトには多すぎたことによる根傷みが起きたものと考えられた。これらのサンプルを検鏡したところ、病原菌は認められず、PCR診断では黄化病陰性であった。

  • 図3.生理的な黄化症状
    A. 下位葉で葉縁部を残し、全体に黄化
    B. 黄化した奇形葉
    C. 黄化部分の境界が黄化病と比べてやや不明瞭

おわりに

トマト黄化病の初期症状とマグネシウム欠乏などによる生理障害は良く似ているため診断に迷うことがある。しかし、黄化病はコナジラミ類により媒介され拡大するため、発生初期であれば葉、株および群落単位で初発部分から拡大することが多い(3)。それに対して、生理障害は植栽位置などにより規則的に発生することが多い(4)。このため、症状に加え、拡大の様相により両者を見分けられる場合がある。ただし、事例2で紹介したように初発から時間が経った蔓延後の状態ではこの手法を使うことは難しい。また、マグネシウム欠乏かどうかの診断は葉面散布の効果の有無により診断することができる(5)。判断に迷う場合は植物医師など専門家に診断を依頼することが望ましい。
黄化病対策は黄化葉巻病と同様、媒介虫であるコナジラミ類の防除対策が中心となる。開口部への防虫ネットの展張による「入れない」、黄色粘着板を活用した発生の予察・捕殺および適期防除による「増やさない」、栽培終了後の蒸し込み・残渣処理による「出さない」対策である(6)。トマト黄化病の防除対策を成功させるには休作期間にコナジラミ類を死滅させることが肝要で、カーバムナトリウム塩液剤による古株枯死(7)がこれに活用できる。

(*兵庫県立農林水産技術総合センター)

引用文献

  1. 山城都(2016)「トマト黄化病の発生と防除対策」植物防疫 70:382-386.
  2. 渡辺和彦(2002)「原色 野菜の要素欠乏・過剰症-症状・診断・対策」 農山漁村文化協会 P.20.
  3. 難波成任(2022)「植物医科学」 養賢堂 p.128.
  4. 眞山滋志・土佐幸雄(2020)「植物病理学第2版」 文永堂出版 p.149.
  5. 清水武(1990)「原色 要素障害診断事典」 農文協 p.13, 216.
  6. 野菜茶業研究所(2009)「トマト黄化葉巻病の防除に関する技術指針」
  7. 野仲信行(2023)「「古株枯死」とは? ~栽培の上手な終わらせ方~」 i Plant 1(1).
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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)