シバ病害、誤診を防ぐために -検鏡観察のススメ-

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植物医師
佐藤 政宏

シバ管理者(グリーンキーパー、以下GK)は、どのようなタイミングで殺菌剤を用い、病害を防除するのだろうか。梅雨期や熱帯夜が続くような発病適期にはシバの観察を怠らず、発病の予兆を発見したなら一発で仕留める。これがGKの腕の見せ所である。ただ、この予兆というのが曲者である。ほとんどがGKの所謂“カン”によるものが多く、生育に異常があることはわかるが原因となる病原まではわからないのである。また、シバの病害は数多くあり、発病初期の病徴はそれぞれがよく似ていて見分けが難しく判断に困る場合が多い。シバの病害図鑑等にはそれぞれの特徴をうまくとらえた病徴写真が載っているが、現場での初期病徴は特徴的な症状が現れないために、病害の種類を特定できないことが多い。発病初期にできるだけ早く病害を特定し、発生している病害の種類に応じた有効薬剤を選択することが最も有効かつ効率的な防除につながる。
そこで、先ずは顕微鏡により初期病徴を観察し、病害診断を行う。ゴルフ場では、病害診断を農薬メーカー等専門の業者に委託している場合が多い。しかし、病気の種類や発生時期等によっては緊急を要する場合もあるため、GK自らが管理事務所に顕微鏡を持ち込み、検鏡により診断するのが理想的と考える。
新発見や研究目的ではないので高度な検鏡技術は必要でない。原因(病原)が何かがわかりさえすれば良いのである。顕微鏡も高額な機器は不要で中古品の利用でも十分である。
なにより的確な防除が最小限の経費と農薬使用で行えるようになり、長い目で見れば環境負荷軽減にもつながると考える。

以下に筆者自身の誤診体験を紹介する。
冬期にゴルフ場のベントグリーン上にパッチ状の病害が発生した(図1)。時期的なものからフザリウム菌もしくはミクロドキウム菌による病害と推察して薬剤防除したものの、改善が見られず拡大してしまった(図2)。
そこで、検鏡観察したところ根部に多数の卵胞子が確認され、原因は低温性のピシウム菌(Pythium vanterpoolii)であることがわかった。これが、“カン”に頼った典型的な誤診例である。
参考に、ミクロドキウム菌によるパッチの写真を示す(図3)。病徴が酷似しており、目視での判定は難しい。

  • 図1. 冬期のベントグリーン上に発生したパッチ症状(シバピシウム病)
  • 図2. パッチ症状が広がっている様子(シバピシウム病)
  • 図3. ミクロドキウム菌によるパッチ症状(シバ紅色雪腐病)

※ゴルフ場のシバ管理責任者あるいは管理技術者の呼称は、国や地域により異なっている。世界的には“Superintendent”が一般的であるが、欧州では”Groundsman”とも呼ばれる場合もある。本報では和製英語的ではあるが、我が国でもっとも広く使われていると考えられる“グリーンキーパー(Green Keeper)”を用いることとした。

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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)