ミミズ堆肥による植物病害の軽減と予防  Ⅱ. ミミズ堆肥の植物病害の軽減効果

大阪公立大学 農学研究科 東條 元昭*
大阪公立大学 農学研究科 川澄 留佳
大阪公立大学 農学研究科 岸 春希

*責任著者

はじめに

ミミズ堆肥(vermicompost)はミミズの持つ有機物分解や土壌団粒化の作用を利用して非好熱的に作られる堆肥である。古くからミミズ堆肥が注目されてきた歴史や現代の作製法については前回述べた(1)。ミミズ堆肥は食品残渣や牛糞・豚糞などの動物性残渣を材料として作られるのが一般的である。今回はこれらの材料から作られるミミズ堆肥の植物病害軽減効果について、近年の研究や筆者らの試みを紹介する。

ミミズ堆肥による植物病害の軽減効果の現状

植物病害の軽減効果を目的としたミミズ堆肥の施用法には、1)ミミズ堆肥を固体として使う方法、2) ミミズ堆肥の抽出液を散布する方法(図1)の2つがある。いずれの方法でも植物病害の軽減効果が知られる。同じ植物個体に2つの方法で同時に処理する方法、つまり地下部に予め固体としてのミミズ堆肥をすき込んだ後に、植物病害の発生状況によって地上部への抽出液散布を合わせて行うことも可能である(2)。
ミミズ堆肥の植物病害軽減効果の研究は1990年代後半に欧米やインドで本格的に始まった(3)。2020年代に入って世界的な関心がさらに高まっている(2)。植物病害軽減効果を狙った活用は、動物の糞尿、調理場や農場から出る植物残渣のリサイクルを兼ねて実施されることが多い(2)。ミミズ堆肥は植物の幼弱期から成長期にかけて土壌伝染性の病害を起こす植物病原体の感染を抑制する能力がとくに高いとされ、育苗培土に添加して使われる例が多い。Globisporangium ultimum (syn. Pythium ultimum) 、Rhizoctonia solaniVerticillium sp.などの土壌伝染性病原菌への抑制効果が良く知られている(4)。
ミミズ堆肥の植物病害軽減効果の主なメカニズムとして、1)微生物間の栄養競合の活発化、2)抗菌物質の産生、3)植物病原体に寄生する微生物の増加、および4)植物への誘導抵抗性の4つが知られている(2)。これらは生物防除の一般的なメカニズムと共通するが、ミミズ堆肥では団粒構造やミミズ糞由来のバイオフィルムが発達するため、微生物の生息場所となってこれらのメカニズムが長期間維持され易くなると考えられる。一方、作用が長期間にわたることで、発病抑制効果が環境(特に土壌)に影響される。植物の成長とミミズ堆肥の関係性についてはBlouin ら(3)が1997年~2016年に出版されたミミズ堆肥に関わる論文を網羅的に調べている。論文解析の結果、食品残渣由来のミミズ堆肥が植物の成長に及ぼす効果の特徴として、1) 植物成長に及ぼす効果はミミズ堆肥が添加される側の土壌の種類によって大きく異なる、2)ウリ科、キク科、マメ科などがとくにミミズ堆肥との相性が良い、3)ミミズ堆肥の土壌への施用量が土壌容積の30~50%の場合に植物成長へのプラス効果が最大になる等を示している。このようにミミズ堆肥の植物に及ぼす効果は、土壌や植物との組み合わせや施用量によって大きく異なる。この現象をポジティブに捉えると、作物や土壌の種類とのマッチングを最適化すれば、病害軽減や植物成長に対する効果をより高いレベルに発揮させる余地があるとも言える。今後、ミミズ堆肥と土壌や植物との相性に着目して現場に合わせたテーラーメイド的なミミズ堆肥の開発を進めることで、ミミズ堆肥の利用が生産者や技術者にとってより魅力的な技術になると考えている。

  • 図1.ミミズ堆肥コンポストティーの散布による収穫期の施設栽培イチゴ灰色かび病の発病抑制の試み
    a. 背負い式動力噴霧器による散布
    b. 散布後に自然発生したイチゴ灰色かび病

    試験協力: 尤 暁東博士(写真aの散布者。試験時:大阪府立大学大学院、現:クミアイ化学工業株式会社)、ならびに平山喜彦博士(試験時:奈良県農業研究開発センター、現:龍谷大学農学部)

筆者らのミミズ堆肥普及の試み

筆者らはこれまでに学校現場で給食残渣からミミズ堆肥を作出することに成功した(5)。主な堆肥化作業は給食残渣の市販コンポスターへの投入であり、日常的に行われてきた生ごみ廃棄作業に僅かな労力を追加することで実施できる。作出された堆肥は学校の花壇や菜園の植物の株元に散布して使用する。今後、学校現場でのミミズ堆肥化の実践を児童・生徒への出張授業と合わせて実施する予定であり、給食残渣などの堆肥化作業を行いながら、物質循環や植物病害防除への理解を深める地域活動として発展させたいと考えている。
ミミズ堆肥の抽出液はコンポストティーとも呼ばれ(1)、動力噴霧器で散布することができる。筆者らはミミズ堆肥を農業現場で利用するための予備実験として、ミミズ堆肥コンポストティーの施設栽培イチゴにおける病害防除効果や生育への影響について検討している(図1)。灰色かび病の自然発生を観察した結果、化学合成農薬のような明確な病害軽減効果は見られなかった一方で、薬害は認められなかった。ミミズ堆肥のコンポストティーは一般に粘性が低く、90メッシュ(目の開き160 µm)程度の市販のナイロン製ストレーナーで予めろ過すれば動力噴霧器が詰まるなどの障害は起こらなかった。一方で果実に堆肥臭が僅かに残るため、とくに果菜類では散布時期(収穫直前は避ける)や散布対象部位(果実などの可食部に撒かない)などについて考慮する必要があることがわかった。動力噴霧器によるミミズ堆肥コンポストティーの散布は簡易であり、今後も現場での散布方法について検証していきたい。

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ISSN 2758-5212 (online)