都市農業のナシ栽培におけるナミハダニの対策 ~農薬散布から天敵を主軸とした防除への転換~

東京都農林総合研究センター 加藤 綾奈*
東京都病害虫防除所 飯塚 亮

*責任著者

はじめに

都内のナシ生産圃場は住宅地の中に点在しているため、農薬の散布時間や音にも配慮しなければならない。また、化学農薬で防除しているにも関わらず、ナミハダニが多発して葉が加害されると(図1)、被害が甚大な場合は収穫前に落葉し、翌年の花芽の着花に影響する。
本稿では、東京都稲城市を中心として化学農薬のみに偏重しない防除に取組み、防除体系が転換された現地事例を紹介する。

  • 図1. ハダニ類による被害
    A. ナミハダニ黄緑型
    B. ハダニ類多発時の圃場の様子
    C. ハダニ類によるナシ葉のかすれ症状
    D. ハダニ類多発時のかすれ症状から葉焼けした症状

薬剤感受性検定に基づいた防除薬剤の提案

ナシのハダニ類に対する薬剤防除が困難であることから、毎年のように試験課題化の要望が現地普及センターより挙がっていた。そこで、2014年より薬剤の効果を確認するため薬剤感受性検定を行った。その結果、12圃場でナミハダニの雌成虫に対して供試した8薬剤、卵に対して供試した10薬剤(いずれも使用実績のある薬剤)のうち、両方に効果が高かったのはアセキノシル水和剤(商品名:カネマイト®フロアブル)およびミルベメクチン乳剤(商品名:コロマイト乳剤)の2剤のみであり、多くの薬剤で感受性が低いことが明らかとなった(1)。また、IRACコードが同一の薬剤を使用している事例や交差抵抗性がある薬剤を使用している事例など、薬剤抵抗性が発達しやすい、薬剤が効きにくい散布の仕方も見受けられ、薬剤の散布体系の改善が必要であった。併せて実施したナミハダニの発生消長調査の結果から、都内ナシ園でのナミハダニ(黄緑型)の初発生は 6月下旬であり、その後7月中旬から 8月上旬にかけて増加傾向となり,8月中下旬にピークを迎えた後、 8月下旬から 9月中旬に収束することが確認された。
以上の結果をもとに、現地生産組合で毎年作成されている防除暦の改定を行った。

天敵ミヤコカブリダニの活用

前項の結果に基づいて防除暦の改定は行えたものの、効果のある薬剤が少ないこと、効果のある薬剤の連用により更なる薬剤感受性の低下が起こる可能性があった。また、薬剤散布自体が生産者の負担になっていることも大きな課題であった。そこで、化学農薬のみに偏重しない防除法を検討し、天敵であるカブリダニ類(ミヤコカブリダニ製剤、製品名ミヤコバンカー®(システムミヤコくん)もしくはスパイカル®プラス)を2021年6月中下旬に導入した。天敵導入後に効果を確認したところ、試験圃場のうち1つの圃場では2020年のハダニ類に対する防除薬剤が5剤であったのに対し、2021年はミヤコカブリダニ製剤に加えて防除薬剤が1剤のみであったにも関わらず、ピーク時のハダニ類の発生量は1/8となった(2)。

清耕栽培から草生栽培へ

調査の当初は、ナシ圃場内に草が生えていると見栄えが悪い、管理していないと見られるなどの理由で除草剤等を使用し、清耕栽培としている園地が多く見受けられた(図2)。一方で、草を刈ることで下草にいたハダニ類がナシの樹上に上がってきて被害を及ぼす場合がある。そこで、ハダニ類の天敵であるカブリダニ類を温存し、土着のカブリダニ類も活用するには株元草生が良いという他県の情報(3)をもとに、幹周り半径約1m内の下草を約30㎝程度残す草生栽培と天敵のミヤコカブリダニ製剤を組み合わせた防除法の試験を行った。その結果、品種「稲城」ではピーク時のナミハダニの頭数が、株元草生栽培では0.9頭/葉であったのに対し、下草をすべて刈り取る清耕栽培では1.9頭/葉であった。加えて、株元草生栽培ではナミハダニの発生と同時にカブリダニが出現した。一方、清耕栽培ではナミハダニから14日遅れて発生が確認された(4)。この試験結果から、天敵と株元草生栽培を組み合わせた防除体系が現地に普及した(図3)。

  • 図2. 下草のない清耕栽培の圃場
  • 図3. 下草を短く管理し、株元は草生栽培にしている圃場

おわりに

2014年よりナシのハダニ類の防除について現地生産組合と関わってきた。当初は農薬散布のみの防除体系であったが、生産組合内の天敵を導入する生産者が2024年9月現在で76戸中60戸まで普及が進んだ。稲城市梨生産組合が防除暦を作成し、新規の登録薬剤が出てきた際は防除暦に入れる前には組合員で効果を確かめるなど、組織として強固であることが一連の試験が迅速に進んだ重要なファクターと考える。現在、12月に行われる防除暦の検討会では、農薬散布のみの防除暦と、天敵に影響の少ない剤を中心に組んだ防除暦の2種類を作成しており、これによってハダニ類の対策は着実に成果を上げている。

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ISSN 2758-5212 (online)