生咲 巖
はじめに
前回はキウイフルーツで問題となるバクテリア(細菌)病について、病徴や発生しやすい条件、防除方法を紹介した。今回はカビ(糸状菌)病について紹介する。
キウイフルーツで問題となる糸状菌病
(1)果実軟腐病
キウイフルーツ果実軟腐病は、主に貯蔵中や追熟中の果実に発生し、果実の品質を損なう病害である。本病の主な病徴は果実の軟化腐敗であるが、本病に罹っているかどうかを貯蔵前や追熟前に果実の外観から判断することは難しい。発病果実の外観は健全に見えても、触ってみると部分的に凹むので、軟らかく腐敗していることがわかる。実際に皮をむくと、ほぼ円形に水が滲んだように腐敗している様子が確認される(図1)。このような病徴が認められれば大半が本病と診断できる。なお、発生が多い年には樹上でも発生することがある。
本病の病原菌として3種類の糸状菌(Botryosphaeria dothidea, Diaporthe sp., Lasiodiplodia theobromae)が報告されており、香川県のキウイフルーツ栽培ではBotryosphaeria dothideaによる発病が主体となっている(表1)(1)。病原菌は前年の果梗(果実の柄)や枯死した部位で越冬し、雨滴に混じって胞子が飛散して果実に感染する。果実への感染は落花後から収穫期まで続くが、特に梅雨期の果実肥大期に最も感染しやすい。また、果実に侵入して長期間潜伏した後、貯蔵中に発病すると健全果実にも感染が拡がり、被害が増大する。
(2)灰色かび病
キウイフルーツ灰色かび病は、葉や果実に発生する病害である。本病の主な病徴は、葉の褐変や果皮の障害(褐変、傷)、果実の腐敗である。葉の褐変は、6月頃に落下花弁や雄ずい(おしべ)等が葉に付着することで、付着部位を中心に生じる(図2A)。その一方、果皮の障害は、病原菌に感染した花弁が幼果から落ちずに残存したまま発病することで生じる(図2B)。また、香川県ではあまり発生することはないが、果実の腐敗は収穫後の貯蔵中に生じ、発病した果実は果実全体が軟化、腐敗する。腐敗が進行すると果実表面に病原菌の灰白色の菌糸や灰色の胞子が形成されるので、果実軟腐病とは区別できる(図2C)。
本病は多湿条件で発生しやすく、湿度の高い園や落弁期に雨が多いと多発する。貯蔵果実においては、果梗部周辺、特にがくに低率に潜伏した病原菌が収穫時の傷口から侵入して発病すると考えられている(2)。本病の病原菌はBotrytis cinereaである。
(3)炭疽病
キウイフルーツ炭疽病は、早期落葉や果実腐敗を引き起こす病害で、症状によっては他の病害との判別が難しい。葉には円形褐色の斑点または銀灰色の斑点を形成し(図3A)(3)、発生が多くなると早期落葉が起こる。本病の褐色斑点症状はかいよう病の葉における症状と酷似することがあるが(図3B)、本病の症状は主に7~9月に発生するのに対し、かいよう病の症状は主に4~6月に発生する。また、果実の病徴は果実軟腐病に酷似し、これを見分けることは難しい(図3C)。香川県の現場では、腐敗果実は早期軟化または果実軟腐病として処理されているが、一部には本病による腐敗が含まれていると考えられる(表2)。
本病の発生しやすい条件や伝染経路の詳細は不明であるが、樹上の枯れ枝や結果母枝に形成された病原菌の柄子殻(へいしかく)に作られた胞子が、降雨や風などによって飛散して広がると考えられている。本病の病原菌としてColletotricum属菌5種が報告されている。
(4)すす斑病
キウイフルーツすす斑病は、葉および果実に発生する病害で、2003年に福岡県で初めて発生が確認され(4)、佐賀県や愛媛県でも発生が確認されている(5)。主な病徴として、葉では裏面に黒色の菌叢(菌糸の集まり)が旺盛に発生し(図4A)、果実では陥没症状とその中央部に黒色の菌叢が発生する(図4B)。このような病徴が認められれば本病と診断できる。
葉の発病は 7月上旬に認められ、落葉期まで発病が続き、特に9月以降から発生が多くなる。樹上での果実の発病は 7月頃から認められ、収穫時に無病徴であっても、低温貯蔵後に発病が認められることもある。本病は、比較的園内の湿度が高い圃場や、薬剤のかかりにくい過繁茂の部分で発病することが多い。本病に対しては品種間差が認められており、2倍体の赤色系品種(A.chinensis種)は感受性が高く本病に弱いが、6倍体の緑色系品種(A.delisiosa種)は感受性が低く本病に強いとされている(4,5)。本病の病原菌はPseudocercospora actinidiaeである。
防除対策および注意点
(1)果実軟腐病
1. 前年の果梗や枯枝は本病の伝染源となるため、これらをせん定時に切除する。
2. 多湿条件の園では多発しやすいため、過繁茂にならないよう夏期に徒長枝を除去し、日当たりをよくする。
3. 袋掛けを行うと病原菌の感染を抑制することができる。
4. 貯蔵中や追熟中の温度を10℃以下にすると発生は少なくなる(6)。
5. 薬剤散布は落花後から果実肥大期(9月)まで行う必要があるが、主要な防除適期は6~7月(落弁後から梅雨明けまで)および8月下旬~9月である。
(2)灰色かび病
1. 本病は多湿条件で発生しやすいため、園内の通風採光をよくし、過湿にならないようにする。
2. 病原菌に感染した花弁が伝染源となることから、落花期の花弁は努めて除去するようにする。
3. 開花期にイプロジオン水和剤やピラジフルミド水和剤などの薬剤を散布する。
(3)炭疽病
1. 枝葉の過繁茂を避けるため、整枝、剪定を改善し、通風採光をよくする。
2. 発生初期の葉は出来るだけ取り除く。
3. 登録薬剤はないが、果実軟腐病や灰色かび病を対象に薬剤散布を行うことにより、病原菌の密度は下がると考えられる。
(4)すす斑病
1. 前作の罹病落葉と剪定枝が一次伝染源と考えられているため、これらを園内に残さず処分する。
2. 防除適期は6~8月と推定されており、クレソキシムメチル水和剤やベノミル水和剤を2~4回散布する(4,5)。
引用文献
- 生咲巖(2024)「植物防疫講座 病害編-57 キウイフルーツに発生する病害の発生生態と防除について」植物防疫78(8): 473–479.
- 三好孝典・橘泰 宣(2003)「キウイフルーツ灰色かび病の発生生態と防除に関する研究」愛媛県立果樹試験場研究報告16: 57-61.
- 牛山欽司ら(1996)「キウイフルーツのペスタロチア病(新称),炭そ病(新称),角斑病(新称)とその病原菌」日植病報62: 61-68.
- 菊原賢次(2021)「キウイフルーツすす斑病の発生生態と防除対策」福岡県農林業総合試験場研究報告7: 7-13.
- 毛利真寿代・篠崎 毅(2014)「愛媛県におけるキウイフルーツすす斑病の発生と防除対策」愛媛果樹セ研報5: 17-27.
- 芹澤拙夫ら(1998)「キウイフルーツ果実軟腐病の薬剤防除適期と追熟温度による発病抑制」静岡県柑橘試験場研究報告27: 41-51.