日本シバのラージパッチ防除 減農薬化の方策とは?

植物医師
佐藤 政宏

はじめに

ラージパッチ(日本シバ葉腐病)はカビ(糸状菌:Rhizoctonia solani )による日本シバ(コウライシバ、ノシバ)に発生する最も重要な病害の一つである。国内での芝草研究のパイオニア、江原薫博士が1968年に出版した著書(1)には、この植物病が載っていないことから、1960年代までラージパッチは発生していなかったと考えられ、1970年代末以降、関西、中国地方あたりを中心に発生し1980年代に全国に拡大したとみられる。筆者が当時勤務していたゴルフコースで1986年に36ホールのうち1ホールだけに1箇所円形のパッチが発生しているだけだったが、その後5年間に全ホールで殺菌剤処置が必要なほどに拡大した。主な要因としては、ゴルフプレーの高度化に伴いゴルフコースの美観や整備の徹底が求められ管理頻度の増加に伴う機械による土壌の踏圧が、シバにストレスを与えたこと等が考えられる。その蔓延、慢性化の原因は不明なままである。コースの形状やラージパッチの発生状況も様々であるため一概には言えないが、18ホールのゴルフ場で数万平米にわたって化学農薬の予防散布が必要となる。
そこで、環境負荷低減にもつながる減農薬化の方策について考えてみたい。

発生状況

ラージパッチで問題となるのは、ゴルフ場にとって最大の商品価値である美観と競技条件の低下である(2)。症状は、はじめ黄化、褐変した小型のパッチであるが、その後拡大し、大きさが直径4~5mあるいはそれ以上のパッチとなる。癒合すると多様な形となる。パッチ内は芽数が減少していき、症状が激化すると裸地化することもある。感染に適した温度は20℃付近であり、発生は降雨のある梅雨期と秋雨期にピークのある年間二峰型となる。最高気温が30℃くらいになると菌の活動は低下し、真夏の平地では見られなくなる。しかし、最高気温が25℃程度の地域や冷夏の年では夏でも発生する。本病は、水の停滞する場所や有機物残渣が蓄積した過湿する場所などで多発し、アルカリ性土壌での発生も多い。また、発生が見られない状態の張替シバや外部からの購入シバからの感染も多くみられる。

  • 図1. ラージパッチ(シバ葉腐病)の発生状況
    A. 発病初期。パッチの輪郭がまだ不明瞭で、円内のシバも緑色である。
    B. フェアウェイ(コウライシバ)での発生。平坦で表面排水が取りにくく、過湿気味であった。
    C. マウンド等の複雑に造形された箇所での発生
    D. フェアウェイ(手前:コウライシバ)とラフ(奥:ノシバ)の境目での発生。コウライシバとノシバの両方が同じように罹患するのがわかる。

現行の防除

ラージパッチの防除は、省力で効果的に防除できる化学農薬で実施されているのが現状である。農薬の散布は、ラージパッチが春(4~6月)、秋(9~11月)の2回の発生ピークとなる事から、この時期の発病前~発病初期に予防散布がおこなわれる。7~8月でも最高気温が25℃程度の地域や冷夏の年では断続的に発病を繰り返すので、化学農薬による防除回数は多くなる。1970~80年代は、トルクロホスメチル剤が主流であったが、現在では少薬量で残効期間の長い化学農薬(DMI剤、QoⅠ剤等)が使用されている(3)。

  • 図2. 化学農薬による防除
    A. 散布車による薬剤散布の様子
    B. Aの拡大図。複数のノズルから薬液が散布される。
    C. 人力散布の様子。機械が入っていけない狭い箇所で行う。

減農薬化の方策

今後もしばらくは、化学農薬中心の防除が主体になると考えられる。しかし、化学農薬による防除一辺倒というのは、いわゆる“薬漬け”という事であり環境への影響や人への安全性等が懸念される。化学農薬による防除は根源的には治療は出来ない病気の傷みを鎮痛剤で緩和し一時しのぎをしている状態である。化学農薬を一切使わない方法は現状では不可能であるが、他の予防対策との組合せにより化学農薬の使用量を減らすことが可能である。物理的防除や耕種的防除を積極的に活用し、化学農薬の使用量を必要最小限とする減農薬栽培管理により、最大の効果を発揮させることが期待できる。
そこで、次に挙げる具体策を提案してみたい。
① 過湿、滞水は最大の要因の一つであることから暗渠排水等の設置をおこなう。
② 有機物残渣は病原菌の温床となるので適宜除去する。
③ N肥料の過剰使用は発病を助長するので適正な施肥量を施用する。
④ 酸性土壌では発病抑制がみられることから、表層(表面から2㎝深程度)の土壌PHを5.0程度にする。
⑤ 有機質資材や土壌改良材の施用で土壌生物相を多様化し発病しにくい土壌環境にする。
⑥ 数十平米程度の小面積の発生であれば抵抗性品種に張替をおこなう。

これらの対策を実施するに当たっては様々な注意点がある。①、②では実施時期が重要である。病原菌の活動開始期と重なれば、かえって発病箇所を拡大させてしまう可能性がある。④、⑤では発生地により土壌条件が異なる。利用する資材の選択や施用量等を誤ると、発病を助長してしまう場合も考えられる。取り組みの前に、是非とも身近な植物医師®に相談していただきたい。
また、イネ紋枯病(これも同じ種の菌、Rhizoctonia solani )の発病抑止に向けて、弱毒病原性菌を事前に接種して発病を抑止するなどの研究も行われている(4)。こうした技術を今後ラージパッチに応用できる可能性もある。一見するとシバは農作物とは扱いを異にしてしまいがちだが同じ植物であるという考え方も重要である。

このページの先頭へ戻る
iPlant|ISSN 2758-5212 (online)