東京大学大学院農学生命科学研究科
前島 健作
国内未発生の重要な害虫や病原体が海外から侵入すると、農作物や自然環境に甚大な被害を及ぼすリスクがある(1)。ウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス、PPV)もそのような侵入が警戒されてきた病原体のひとつである。PPVは2009年に国内への侵入が確認されて以降、約10年にわたり国による根絶事業が実施され、多くの感染樹が伐採、処分された。最近ではPPVがあまり話題にならないが、流行はもう過去の話となったのだろうか?
PPVとは
PPVはモモやプルーン(セイヨウスモモ)、アンズなどの生産に大被害を与える果樹ウイルスで、アブラムシによって媒介され、感染すると葉や果実に輪紋が生じ、収量や品質が低下する。発祥地とされるヨーロッパ東部では100年以上前から問題になっており、近年では、韓国や中国でも相次いで発生するなど、世界各地に拡大している。アメリカでは1999年に発生が確認されたが、2019年には根絶された。PPVはDやMなどおよそ10の系統に分かれており、系統ごとに病原性や宿主の範囲などに違いがある。中でもD系統は世界各地に分布しており、中国や韓国、アメリカでも発生している。D系統は症状が軽く、モモよりもプルーンに感染しやすいとされるが、実際のところは系統内でも多様性があり一概には言えない。
日本での発生状況
2009年から2025年までに13都府県で発生が確認されている。発見された感染樹の約9割はウメで、ほかにモモ、アンズ、ユスラウメ、スモモ、プルーンに感染する(2)。大半はD系統だが、神奈川県の一部地域ではモモに感染しやすいとされるM系統が発生している。国の根絶事業(2010年〜2021年)により、全国で感染樹の特定と除去が進められ、いくつかの地域では根絶されたが、地域によっては感染樹が現在も確認されており、再流行のリスクは残っている。
再流行を防ぐためのしくみ
PPVが国内で再び広がることを防ぐため、現在は2つの対策がとられている。ひとつは、発生地域から苗木を移動させる際にPPVの検査を求める制度で(3)、もうひとつは、全国の苗木の生産地域を中心に感染樹の有無を毎年調査する制度である(4)。これらはいずれも、感染苗木が人知れず遠くに運ばれて発生地域が増えてしまうリスクを減らすためのしくみである。
私たちにできること
しかし、これらの制度だけでは、調査にあたる人数や調査範囲に限りがあるため、確実にウイルスのまん延を防ぐことは難しい。そのため、できるだけ多くの人でPPVの発生に目を光らせることが大切である。2023年に改正された植物防疫法でも、PPVのような侵入を警戒すべき病害虫を見つけた場合、専門家や生産者に限らず、気づいた人が行政機関に知らせることが求められている。
PPVの発生を知るうえで、最も良い目印になるのはウメの葉である。ウメは全国各地に植えられており、感染した時の葉に現れる症状がわかりやすい(図)。ウメの実がなる時期には、ぜひ実だけでなく葉にも目を向けていただき、もし異変に気付いた場合には、最寄りの病害虫防除所や植物防疫所に相談していただきたい。
引用文献
- 前島健作(2025)「海外旅行で植物の持ち帰りはNG?-植物にも入国審査がある-」iPlant 3(5).
- 樹木医学会 編(2026)「樹木医学講座2 樹木の生物被害」海青社 pp.256-262.
- 農林水産省ホームページ「ウメ輪紋ウイルスに係る苗木等検査の概要」(2026年1月26日閲覧)
- 農林水産省ホームページ「侵入調査事業について」(2026年1月26日閲覧)
