ジャガイモ疫病の効率的な防除に向けて −塊茎潜伏感染と一次伝染源−

若山技術士事務所
若山 健二

はじめに

ジャガイモ疫病は、「隣の畑から飛んでくる病気」と思われがちだが、実際には自分の圃場内に(一次伝染源が)もともと潜んでいる場合が多い。疫病菌の効率的な防除につながるよう、塊茎※1(いも、イモ、芋)における巧妙な潜伏感染※2について説明したい。

※1塊茎(かいけい):植物の茎が地中で肥大化し、養分を蓄えるための器官。ジャガイモやクワイなど。
※2潜伏感染(せんぷくかんせん):病原体が体内に存在しているにもかかわらず、目立った症状を示さない状態。

疫病菌の伝染源

国内におけるジャガイモ疫病菌の主な越冬場所は塊茎である。春に種いもが萌芽するとともに地上部に病原菌が移動し、葉や茎に病斑を形成して、それが第一次伝染源となる。圃場で想定されるこの第一次伝染源は大きく三つに分けられる。
第一に、外観上健全に見える種いもの潜伏感染である(図1-①)。国内では植物防疫法に基づく検査※3が行われているため感染率は高くないと考えられるが、海外では平均11%もの高率な感染が報告されており(1)、種いもの健全性確保は重要である。無病が保証されたマイクロチューバー※4の利用も有効な対策とされる(2)。
第二に、作付け後に圃場に残存した野良いも※5からの感染である(図1-②)。近年は気候変動により土壌凍結が弱まり、野良いもが越冬・発芽して疫病の発生源となる事例が問題化している(3)。特に北海道十勝地域のような輪作体系※6では、次作が小麦の場合、ジャガイモ疫病菌は小麦に罹らないため、疫病の防除が行われない。そのため、残存した野良いもが生育して病害発生源となるリスクが高まっている。
第三に、収穫後に圃場脇へ放置された野良いもの山が感染源となる場合であり、ここで発生した疫病が周辺圃場へ波及する危険性が高い(図1-③)。

※3植物防疫法に基づく検査:植物防疫法では、農業生産の安定のため、ジャガイモなどの指定種苗の健全性を確保するための検査が定められている。この検査に合格した種いもには、合格証票が発給される。害虫はジャガイモガ、ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウ、病原は各種ウイルス、輪腐病菌、青枯病菌、そうか病菌、粉状そうか病菌、黒あざ病菌、疫病菌が検査対象。
※4マイクロチューバー(Microtuber):植物組織培養技術を用い、試験管などの無菌的な環境下で栽培された小さなジャガイモの塊茎(いも)。大きさは0.1gから5.0g程度。
※5野良いも:前の年に収穫しきれずに畑に残ってしまったジャガイモが、翌年に芽を出し、雑草のように生い茂ったもの。
※6北海道十勝地域の輪作体系:土壌の健康維持と収益性の向上を目的として小麦、豆類、ジャガイモ、てん菜の主要な畑作4品目を異なる順序で栽培し、連作障害を防ぐ工夫がされている。

  • 図1. ジャガイモ疫病の塊茎潜伏感染と一次伝染源

塊茎への感染

地上部茎葉の病斑に形成された遊走子のう※7が降雨によって土壌中に移動し、そこから放出された遊走子が塊茎の芽や皮目※8に到達することにより塊茎への感染が起こる(4)。遊走子は遊泳後40分以内と短時間で感染を成立させる。また、塊茎に感染するためには塊茎に到達するまで遊泳する必要があるが、その際に温度が重要となることがわかっている。遊走子は、放出された時の水温が10℃以下の低温では2〜3時間以上遊泳することが可能であるが、18℃以上ではエネルギー消費が早いため30分〜1時間しか遊泳できない(5)。そのため、地温が低温になる時期に塊茎に感染する頻度が高くなり、特に低温が継続すると感染が増加する(図2)。また、収穫時に罹病茎葉や汚染土壌が付着したり、塊茎表面の傷口から侵入したりする移動経路も重要である。疫病菌そのものは塊茎組織を赤褐色に変色させるが、軟腐や腐敗の多くは二次的な細菌感染によるものである。土壌中の疫病菌量と塊茎腐敗の発生率には強い相関がある。

※7遊走子のう(ゆうそうしのう):カビの仲間である卵菌類の一部に見られる袋状の器官。水中で活発に泳ぎ回る「遊走子」を放出する。
※8皮目(ひもく):植物の表皮コルク層に見られる小さな穴や裂け目のこと。気孔の代わりに、植物体内外の空気の流通(呼吸)を助ける役割を担っている。

  • 図2. ジャガイモ疫病菌遊走子の遊泳を持続する時間と水温

有効薬剤の選択

ジャガイモの塊茎への感染を防ぐため、栽培期間中に殺菌剤を用いて複数回の防除が行なわれる。夏の高温・乾燥の気象条件では疫病菌は茎の内部で潜伏感染している可能性があるので、マンゼブやフルアジナムのような植物体内に移行することができない予防剤のみでの防除では、防除効果が不十分となる可能性がある。そのため、それぞれの殺菌剤の特徴である「予防効果」「治病効果」「塊茎保護効果」を活かす方向で薬剤を選択する必要がある。同じ薬剤を使用しているのにもかかわらず生産者によって効果の差が現れる由縁である。
EuroBlight(欧州ジャガイモ疫病ネットワーク)は、ヨーロッパにおけるジャガイモ疫病の防除に関する最新の情報と研究成果に基づいた薬剤効果評価表を公開している。デンマーク、オランダ、ドイツ、イギリスなど複数国において複数年(2006〜2018年)にかけて実施された現地試験に基づき、各殺菌剤の有効性を統一的に評価して定期的に報告している(6)。殺菌剤を選択するうえで重要な役割を果たしている。日本では日本植物防疫協会が実施している「新農薬実用化試験」が公開されているが、残念ながら統一された薬剤効果表は現在のところ整備されていない。

おわりに

疫病対策には、種いもの健全化、野良いもの管理、土壌中病原菌量の把握、そして気象条件を踏まえた適期防除が不可欠である。早期予測とリスク時期の見極めに基づいて防除体系を設計することが、塊茎腐敗と収量低下を防ぐ鍵となる。

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ISSN 2758-5212 (online)