ジャガイモ疫病の効率的な防除に向けて −葉と茎の病斑の役割を知る−

若山技術士事務所
若山 健二

はじめに

ジャガイモ疫病は、世界の重要病害である。病原の学名Phytophthora infestansPhytophthora(フィトフトラ)は、「植物の破壊者」を意味し、短期間で圃場全体に甚大な被害をもたらす。防除の鍵は葉と茎への感染を巧みに使い分ける病原菌の生存戦略を理解することである。

日本での疫病菌感染サイクル

海外では、疫病菌は有性生殖により卵胞子を形成することで、遺伝的多様性を高めているとされる(1)。遺伝的多様性が高いと、環境が変化しても適応できる可能性が高まる。一方、日本では主にクローン株が優先し、卵胞子は確認されていない(2)。そのため、国内での疫病菌の越冬は、罹病残渣ではなく、塊茎(いも、イモ、芋)※1の潜伏感染であると考えられている(3)。春の萌芽とともに病原菌は地上部へ移動し、葉に病斑を形成して第一次伝染源となる(図1)。

※1塊茎(かいけい):植物の茎が養分を蓄えるために地下で肥大化した部分。

  • 図1. バレイショ栽培中の疫病菌の居場所

感染源は遊走子のう

感染は、遊走子のう※2によって起こる。暗褐色の濡れたように見える葉の病斑を裏返すと葉裏には肉眼でも確認できる白い粉のようなものが確認されるが、これが遊走子のうである。遊走子のうは風により数10kmの飛散することもあるが、ほとんどは、発生源から数mに定着する。
病斑に形成されてまもない若い遊走子のうは気温や湿度の変化に応じて間接発芽型※3と、直接発芽型※4に分かれ、感染様式を変える(図2)。

※2遊走子のう(ゆうそうしのう):下等な菌類や藻類に見られる、無性生殖を行う胞子の一種である遊走子を形成・放出する器官。
※3間接発芽型(かんせつはつががた):遊走子のうは、厳密な温度計をその体内に備えており、18℃以上の常温では遊走子の放出は行われないが、18℃より低い温度に移行すると遊走子が放出される(図3)。すなわち、感染は夜から明け方の温度変化に呼応して行われる。疫病が感染に適する気象条件を知れば、いつ感染が成立するのかを予測することも可能である。
※4直接発芽型(ちょくせつはつががた):気温が26℃以上では遊走子のうからの遊走子放出は抑制され、遊走子を放出せずに遊走子のうから直接発芽し、感染する。23℃以上の温度が続く場合には、遊走子のうは遊走子を放出しないで、そのまま発芽し、感染を起こす(4)。この感染経路もジャガイモには深刻な事態を起こすため、近年の気象変動が激しい条件では予防剤のみで防除することは難しく、治病剤を組み合わせて利用する必要がある。

  • 図2. バレイショ疫病菌の感染

 

  • 図3. 遊走子のう間接発芽に与える水温の影響

葉と茎の病斑の役割

葉では発病後短期間で大量の遊走子のうが形成され、梅雨や秋雨に急速な病害拡散を引き起こす。まさしく「植物の破壊者」の面目躍如で、圃場全体にあっという間に蔓延してしまう。一方、茎では病斑形成は遅いものの、組織が長く生存するため遊走子のう形成が長期間続く。このように病原菌の繁殖様式は感染部位によって異なる。
高温・乾燥の夏季には、疫病菌は茎内部に潜伏し、病害が一時的に収束したように見える。しかし秋の冷涼・多湿条件になると再び活発化し、再流行を引き起こす。このため、見落とされがちな茎の病斑と潜伏感染が極めて重要である。
梅雨時期の防除がうまくいったと思わせて私たちを騙し、秋になったらまた姿を現す巧妙な戦略をとる。このことを理解しておくべきだろう。
派手な葉の病斑に目をとられ、茎の病斑を軽視する研究もあるが、実は茎の中に隠れている疫病菌を防除できるかどうかで豊かな秋を迎えられるかが決まるのである。

防除の注意点

防除は殺菌剤に大きく依存している。予防剤のみでは茎内に潜伏した菌を取りこぼす恐れがあるので、発生予測モデルと圃場モニタリングに基づき、初発前から保護剤を中心に予防散布を開始する。感染リスク上昇時には浸達性、治病作用を持つ薬剤を組み合わせ、作用機構(FRACコード)(5)の異なる薬剤を計画的にローテーションして耐性菌の発達を抑えながら体系的な防除プログラムを組むことが必要である(6)。欧州の EuroBlight(欧州ジャガイモ疫病ネットワーク)は多数の現地試験を基に殺菌剤の有効性を総合評価しており、薬剤選択の参考となる(7)。

おわりに

疫病菌の感染サイクルは、温度・湿度・宿主の成育ステージと密接に関わっており、塊茎→茎→葉→再び塊茎というループを形成する。葉だけではなく茎潜伏と秋の再感染を重視した防除戦略こそが、安定した収量確保につながる。

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ISSN 2758-5212 (online)