花が葉のように見えたら ―葉化病の正しい理解―

東京大学 農学部
久世 優衣
東京大学 大学院農学生命科学研究科
岩渕 望・前島 健作*
*責任著者

はじめに

病原体の感染によって花が葉のような色や形になることがある。この現象は「葉化病」と呼ばれ、おもに細菌の一種であるファイトプラズマによって引き起こされる(1)。ファイトプラズマは植物の篩部に寄生し、植物の成長や花の形成に影響を与えるが、ファイトプラズマ病には特効薬がないことから、被害の拡大を抑えるためには迅速な診断と除去が求められる(1)。一方、ファイトプラズマ以外の要因によっても葉化病と類似した症状が起こることがあるため、見た目のみで原因を特定することは困難である。本稿では、ファイトプラズマ以外の原因により引き起こされる類似症状を取り上げ、その判別方法を紹介する。

篩部(しぶ):植物の維管束(いかんそく)にある組織で、光合成で作られた糖などの栄養分を植物全体に運ぶ大切な役割を担っている。

葉化病とは

葉化病とは、植物の花弁・がく・雄しべ・雌しべといった花器官が葉に置き換わってしまう病気の総称である(1、2)。葉化病の多くはファイトプラズマにより引き起こされ、これがアジサイに感染した際に生じる、がく(アジサイでは花弁に見える部分)が緑色になり、厚くぎざぎざした葉に起き換わるアジサイ葉化病が有名である (図1)。葉化病に罹患した植物は、ユニークな症状を示すが、時間が経つと植物全体が衰弱し、やがて枯れてしまう(1)。

  • 図1. ファイトプラズマの感染により葉化したアジサイ(左)と健全アジサイ(右)(文献1より転載)

非感染性の類似症状

一方、病原体以外の原因によって花弁やがくが緑色になってしまうことがある。遺伝子の突然変異によって花弁やがくなどに葉緑素が残り、葉化病に類似した外観を呈するもののことだ(1)。図2のカタクリは、そのような遺伝的異常により花が緑色に変化した例である。また、緑色の花を咲かせる園芸植物の品種も存在する。サクラの「御衣黄」やバラの「グリーンローズ」は緑花の品種として古くから知られており、キクやランなどでも緑花の品種が選抜されている(3)。これらは葉化病と見かけは似ているが、病気ではなく、鑑賞価値のために人間によって見出されたものである。

  • 図2. 緑化カタクリ(左)と健全カタクリ(右)(文献1より転載)

診断

葉化病らしい症状が観察された場合、目視だけで確信を持って病原体による病気かどうかを判別することは困難である。確実に見分けるためには、ファイトプラズマの有無を検査することが有効である。ファイトプラズマ病の迅速かつ簡便な遺伝子診断方法として、農業現場での利用が広がっているのがLAMP法 (Loop-mediated Isothermal Amplification)である(2、4、5)。LAMP法は一定温度下で特定の遺伝子配列を増幅することができるため、一般的なPCR法のような温度サイクル装置を必要としない。また、反応の結果は反応液の懸濁や色の具合などによって目視判定をすることが可能であるため、現場での検査に適している(4、5)。

おわりに

本稿で紹介したように、病気以外の原因によって葉化病に似た症状が現れることもある。これらを正しく見分け、必要に応じてLAMP法などの診断を行うことが、適切な対応や健全な植物の維持につながると考えられる。今後、こうした診断技術がより広く農業現場で活用され、ファイトプラズマ病の早期発見と被害の抑制がさらに進むことを期待したい。

引用文献

  1. 難波成任 (2017)「創造する破壊者 ファイトプラズマ 生命を操る謎の細菌」 東京大学出版 p259-263, 302, 319-320, 364.
  2. 前島健作・大島研郎(2023)「ファイトプラズマ病とは?」iPlant 1(4).
  3. 農研機構ホームページ「緑色花弁に含まれる色素」(2026年1月3日閲覧).
  4. 和田宗士(2025)「農業現場で使える遺伝子診断技術『LAMP法』」iPlant 3(12).
  5. 難波成任 監修・執筆(2022年)「植物医科学」 養賢堂出版 p109, 178-180, 435.
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ISSN 2758-5212 (online)