岩舘 康哉
はじめに
2008年頃から岩手県の露地栽培ナス産地で、実(以下「果実」)の表面に小さなくぼみが多数できる「果実の小陥没症」と呼ばれる障害が発生した(図1A)。この症状は当初、生産者の間で「ボツボツ」、「ブツブツ」と呼ばれていた。本症状が出た果実は外観品質が大きく低下し、出荷できなくなるため、生産者にとって深刻な問題である。多発した圃場では、収穫果実の約7割を廃棄した例もあり、被害は極めて大きい(図1C)。ここでは、小陥没症の発生状況や原因とともに防除対策について紹介する。
どんな症状なのか?
果実の小陥没症は、表面に直径1~2mm程のクレーター状のくぼみが多数できるのが特徴である(図1A)。見た目は非常に悪くなるが、くぼみが広がったり腐敗することはほとんどない。時間が経つと、陥没部がかさぶた状に盛り上がる場合や(図1B)、果実の肥大に伴い裂果することもある。
この症状は、露地栽培ナスの夏秋どり作型で、8月中旬から9月下旬の収穫最盛期に多く発生する。高温期にはほとんど見られないが、盛夏を過ぎて気温が下がる時期に増える傾向がある。露地栽培で多く、施設栽培では発生が少ない。
原因はカビだった!
小陥没症の果実表面にできたくぼみは、拡大したりその後腐敗したりしないことから、発生当初は生理病ではないかと考えられていた。しかし、その後調べた結果、カビ(糸状菌のリゾクトニア・ソラニ)の感染によるものと判明した。この菌は、ナスの葉に発生する「褐色斑点病」の原因菌でもある。
褐色斑点病は、葉に褐色の小斑点ができ(図2A)、曇雨天が続くと拡大し(図2B)、病斑部分から裂けたり穴が空いたりする(図2C)。この病気は従来から果実にも感染し輪紋状の病斑を作ることが知られていたが(1)、無数のクレーター状のくぼみが生じる小陥没症の原因でもあることが新たに分かった(2)。
ナス褐色斑点病菌は、胞子(担子胞子)が風雨で飛び散り、空気伝染によって感染する。発病した葉の裏には白い粉状の胞子形成組織(子実層)が作られ(図2D)、そこに胞子ができる。この胞子が果実表面に付着し感染することで、小陥没症が発生するのである。
小陥没症の果実はなぜ腐らないのか?
小陥没症は、陥没部が広がったり、果実全体が腐敗したりすることはない。また、陥没部で病原菌の菌糸が広がったり、胞子が形成されたりすることもほとんどない。このため、小陥没症は植物の抵抗反応の一種と考えられる。したがって、小陥没症の果実は病気の伝染源としての役割はほぼないと考えられる。
防ぐにはどうする?
小陥没症が褐色斑点病菌による感染であることがわかったので、殺菌剤により防除できることが分かった。複数年検討した結果、イソピラザム水和剤、ペンチオピラド水和剤、アゾキシストロビン水和剤などに高い防除効果があった(3)。
重要なのは散布のタイミングである。症状が出てから散布しても効果はなく、被害発生前から予防的に散布する。葉の褐色斑点病を防ぐと同時に胞子形成を抑制し、結果として果実の小陥没症を防ぐことができる。岩手県の露地栽培ナスでは、7月中~下旬と8月中旬~9月中旬が防除の適期である。薬液は胞子が形成される葉裏にもよく散布する。過繁茂を避けるための剪定や摘葉も有効である。
品種を変えたら出ないのか?
果実の小陥没症が問題となった産地では「くろべえ」の単一栽培であったため、発病に品種間差異があるかどうか注目された。しかし、複数の品種を比較検討した結果、発病のしやすさには多少の差があったものの、実用的な抵抗性品種は確認できなかった(2)。したがって、現時点では薬剤防除と栽培管理が対策の中心となる。
おわりに
ナス果実の小陥没症がなぜ岩手県で問題化し、これまで他地域で発生報告がなかったのかは不明である。褐色斑点病自体は他地域でも発生しているため、気象条件など地域特有の環境要因があるのかもしれない。しかし、他産地でも生理的な障害として見過ごされているものの、実際には本症が発生している可能性も否定できない。したがって、葉に褐色斑点病(図2A~C)が見られる場合は、果実の小陥没症にも注意してほしい。

