イネとそっくりな雑草「雑草イネ」とは?

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茨城県農業総合センター農業研究所
大橋 俊子

 

あなたの身の回りの水田に、見た目はイネなのに、どこか様子が違うイネはないだろうか。例えば、通常のイネより背が高い、穂を握ると籾(もみ)がすぐ落ちる、玄米が赤い、などといった特徴のイネがあれば、それは雑草イネかもしれない。本稿では、水田で防除の難しい雑草の一つである雑草イネについて紹介する。

雑草イネとは

雑草イネは植物の分類上はイネそのものであり、学名(Oryza sativa L.)も栽培イネと同じである。栽培イネの畦間や株間に生える、脱粒性(だつりゅうせい)※1の高いイネを総称して「雑草イネ」と呼んでいる。雑草イネ(図1)は、移植栽培圃場か直播栽培圃場かに関わらず、全国的に発生している。雑草イネの多くは栽培イネより草丈が高いが、栽培イネと同程度のものや、やや短いものもあり、地域内で混在していることもある。また、雑草イネの玄米は、表面が赤いものが多く(図2)、「赤米」と呼ばれている。収穫物に雑草イネの玄米が混入すると、着色粒として扱われ、混入率が0.1%を上回ると等級が低下し、0.7%を上回ると品種銘柄表示※2ができなくなる。

※1種実が成熟すると母体植物から離れて落ちる性質。野生の植物は繁殖のために脱粒性を有するものが多い。日本の栽培イネの品種は脱粒しにくいものが大部分である。
※2農産物検査において、品種銘柄(例:「コシヒカリ」「あきたこまち」)であると証明を受け、玄米袋などに表示すること。

  • 図1. 雑草イネ(周りの栽培イネより早く出穂)
  • 図2. イネ籾の様子
    左:雑草イネ籾(玄米の種皮が赤いため赤く見える)
    右:栽培イネ籾

最大の特徴「脱粒性」

栽培イネと雑草イネの最大の違いは、脱粒性にある。雑草イネは、出穂後2週間ほど経つと、手で穂を握るだけで籾がポロポロとこぼれ落ちる。穂が成熟すると、風などのちょっとした刺激でも簡単に籾がこぼれ落ちる。この性質のせいで、雑草イネの籾は水田内に残りやすく、翌年の発生源になる。

雑草イネの起源

雑草イネの起源は明らかになっていないが、遺伝子解析の結果、古代米※3とは異なり、また、現在作付けされている各種栽培イネ品種の突然変異でもないことが明らかになっている(1)。

※3古代のイネがもっていたのではないかと考えられる特徴があるイネの品種で、 日本では玄米の表面が赤いものや黒いものなどが古代米と呼ばれることが多い。

雑草イネ防除のポイント

雑草イネの多くは玄米の表面が赤いため、収穫後に色彩選別機※4で選別できる。しかし、脱粒性が高いため、雑草イネが発生した水田内には多くの雑草イネ種子が残り、年々発生が増加するため、収穫前に水田内で防除することが重要である。すでに述べたとおり、雑草イネは栽培イネと同じ「イネ」のため、栽培イネに混じって生えている雑草イネだけを防除する除草剤はない。雑草イネの防除では、耕種的・物理的防除も重要であり、①栽培イネの移植時期を遅らせることと、②手取り除草の効果は大きい。手取り除草を行う場合は、雑草イネの種子が発芽能力を獲得する前まで(雑草イネ出穂10~14日後頃まで)に実施する。
一方、③除草剤を使用する場合、雑草イネに対して除草剤が効果を発揮できるのは、雑草イネ発生前~発生直後の、個体がごく小さい時期に限られる。雑草イネは長期間にわたってだらだらと発芽するため、雑草イネに対する除草剤の効果を切らさないよう、移植日、移植後5~7日、移植後14日を目安に、雑草イネに有効な除草剤を3回以上処理する。また、雑草イネ種子の中には、水田内で2年以上生存するものもあるため、①~③の手段を組み合わせて、3年以上の防除を継続することも重要である(2)。

※4穀物や食品などに含まれる異物などを色や形状の違いを識別して除去する機械。米の選別で使われることが多い。

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ISSN 2758-5212 (online)