ブームスプレーヤによる機械式農薬散布ではノズルの位置が効果を決める

佐賀県農業試験研究センター
井手 洋一

はじめに

タマネギの大規模栽培農家では、病害虫防除にあたって効率の良いブームスプレーヤが広く利用されている(図1)。ブームスプレーヤは、両側に伸びたブームと呼ばれる腕に取り付けられたノズルから薬液がシャワー状に散布される。この時、ノズルの高さが重要であることをご存じだろうか?
農業機械の分野では、隣り合うノズルから散布された薬液どうしの重なりをオーバーラップ(図2で25㎝より下の部分)と呼ぶ。このオーバーラップは、別方向から薬液が吹き付けられるため効率が良くなるので、散布対象の作物よりも上方にオーバーラップが来るようにする必 要があるとされる。つまり、このオーバーラップを考慮し、作物へ薬液をむら無く行き渡らせる適切な高さにノズルを調節する必要がある(1)。
このことを、筆者らがタマネギで実施した一連の試験結果をもとに説明したい。

  • 図1. ブームスプレーヤから散布される円錐形の噴射状況
    A:ノズルからの噴出状況(正面)
    B:ノズルからの噴出状況(側面)
    C:タマネギ圃場での噴出状況

Ⅰ ノズルから噴出される薬液は円錐状に噴出されるが位置により散布むらが生じる

ブームスプレーヤから散布される薬液は、家庭用のシャワーや雨が降る時のように、ほぼ真下に直線的に落下すると思われがちである。しかし、実際には各ノズルから散布された薬液は円錐状に噴出される(図1)。
著者らは、薬液の散布状況を知るために、タマネギ葉に似せて園芸用グリーンポールを15cm間隔(ノズル真下,ノズルとノズルの間)に立て、感水紙を用いて農薬の付着状況を調べてみた(1、2)。その結果,ノズルの真下は、ノズルの高さ(距離)にかかわらず、薬液付着が良好であった。しかし、隣り同士のノズルとノズルの中間部位ではブームから5cm程度までのあいだは、薬液のかからない死角の部分が生じ、手をかざしてもほとんど水で濡れなかった(図2)。

感水紙:水に濡れると変色する専用の紙で、農薬散布試験では、薬液の付着状況調査等に用いられる。今回用いた感水紙は濡れると黄色から青色に変色する。

  • 図2. ブームスプレーヤのノズルから噴出される薬液の拡散状態(模式図)

Ⅱ タマネギ圃場における薬液付着とべと病に対する防除効果

このノズルとノズルの間に生じる散布むらの死角は、実際のタマネギ圃場の防除作業においても、薬液付着や防除効果に影響を及ぼした。
生育中期のタマネギ圃場において薬液の付着調査をした。ノズルの先端を葉先から30 cm上方と葉先付近に設置して比較した。その結果、地表面に近い葉身抽出部(基部)は、ノズル位置に関係なく薬液付着が良好であった。しかし葉身中央部は、ノズル先端部を葉先から30 cm上方に設置した場合では薬液付着はむらがなく良好であったが、葉先付近に設置した場合では薬液の付着むらが生じ、付着割合は低下した(表1)(2)。
実際にべと病に対する防除効果を調べても、ノズル先端を葉先付近に設置した散布方法の防除効果より、ノズル先端を葉先の30 cm上方に設置した方が良好であった(表2)(1~3) 。

  • 表1. ブームスプレーヤで散布した場合のタマネギにおける薬液付着の評価
  • 表2. ブームスプレーヤのノズルの高さがタマネギべと病に対する防除効果におよぼす影響

おわりに

ブームスプレーヤから噴出された薬液は円錐状に噴射される。隣同士のノズルから散布された薬液のオーバーラップ部分より下の位置では良好な薬液付着と高い防除効果が得られるが、上方の位置(図2の黄色の部分)では,薬液付着にはむらが生じ、防除効果も良くない。海外でもオーバーラップの重要性が唱えられている(1)。
なお、このノズルの噴霧位置の高さと薬液付着の関係については、散布量や茎葉の混み具合によっても、また別の理由で薬液付着に問題が生じる。これついては、改めて紹介する。

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ISSN 2758-5212 (online)