鈴木 真裕
東條 元昭*
*責任著者
はじめに
近年、外来昆虫のチュウゴクアミガサハゴロモ(Pochazia shantungensis;カメムシ目ハゴロモ科)が国内で急速に拡がっている。この昆虫は果樹、園芸樹、街路樹などの枝に産卵し、卵を組織内に埋め込むことで枝に傷をつけるほか、樹液の吸汁により生じる排泄物がすす病を発生させる(1)。とくに観賞用の樹木では産卵により枝が損傷すると商品価値を低下させる。今のところ、国内では大きな経済的被害は報告されていないが、各地で特殊報(2)の発令が相次いでおり、今後の被害拡大の可能性に向けた注意喚起がされている。本稿ではチュウゴクアミガサハゴロモの特徴と対策について紹介する。
発生分布の拡大状況
チュウゴクアミガサハゴロモは中国原産であり、外来種としてヨーロッパ~アジア圏において急速に分布が拡がっている。韓国では2010年に初めて報告され、リンゴ園やクリ園ではほとんどの成樹が枯死した事例もあるとされ、被害は深刻であった。それ以降は同国内の広い範囲で確認されるようになった。
我が国では2015年に大阪府南部で初めて確認され、以後、急速に拡がり、現在では関東以西のほとんどの都府県で確認されている(3)。侵入経路については、中国または韓国から、卵が産み付けられた果樹や園芸樹などの植栽用苗木等が輸入された可能性がある。大阪では6月頃と10月頃の年2回成虫が発生し、卵で越冬することが分かっている(3)。
チュウゴクアミガサハゴロモの特徴と見分け方
成虫は体長が11~14 mm、赤褐色~暗褐色の前翅(頭部側の翅)の縁の中央部に三角形の白斑がある(図1, a)。幼虫は白色で背面に小黒点をもち、腹部から白い繊維状の蝋物質を広げるのが特徴である(図1, b)。卵は枝の内部に産み付けられ、産卵痕は白い繊維状の蝋物質で覆われる(図1, c)。在来昆虫のアミガサハゴロモ(Pochazia albomaculata)はチュウゴクアミガサハゴロモに類似するが、アミガサハゴロモでは成虫の前翅の白紋が楕円形であること、幼虫は褐色であることなどで見分けることができる(3)。アミガサハゴロモの卵に関する既報の知見はないものの、チュウゴクアミガサハゴロモのように枝を蝋物質で覆わずに産卵する様子が観察されている(SNS等のインターネット情報)。チュウゴクアミガサハゴロモの成虫は1年生枝などの若い枝に群れて吸汁する様子がしばしば観察される(図2a)。吸汁のための口針は、基部の太さが約5 µmであり、先端に向かって細く尖る(図2b, c)。
加害植物とその対策
チュウゴクアミガサハゴロモはとくにツバキ属やブナ科植物に付くことが多いが、広食性であるためいろいろな植物を加害する(3,4)。国内の特殊報によれば、ブルーベリー、オリーブ、ブドウ、カンキツ、カキ、ナシ、モモ、スモモ、オウトウ、フェイジョアなどの果樹のほか、特用作物のチャノキに加え、モミジ、イヌツゲ、ソヨゴなどの植栽樹などを幅広く加害するとされる(5~12)。
韓国では薬剤防除のほか、産卵痕のある枝を切除したり、成虫の飛来を防ぐ防虫ネットを使った防除が行われたりしている。また、黄色粘着板トラップも活用されている。
おわりに
日本では現時点で登録農薬が無いため、まずは本種の侵入規模や被害状況の観察・把握につとめ、必要な対策を検討する必要がある。産卵痕を見つけたら枝の切除や防虫ネットの活用を中心とした対策や黄色粘着板を設置して捕殺する。前述したように、本種はツバキ属やブナ科植物で多く観察されるため、とくにチャ園やクリ園では注意する必要がある。
引用文献
- Jo, S.J. (2014) Study on the control and ecology of Ricania shantungensis. Journal of Tree Health, 19: 35–44. (In Korean with English abstract)
- 根本文宏(2025)病害虫発生予察情報を活用して、植物病害虫から農作物を守ろう.iPlant 3 (6).
- Kobayashi, S., Suzuki, M., Kuwahara, R., Park, J., Yamada, K., & Jung, S. (2024). Reevaluation of taxonomic identity of the recently introduced invasive planthopper, Pochazia shantungensis (Chou & Lu, 1977)(Hemiptera: Fulgoroidea: Ricaniidae) in Japan. Zootaxa, 5446(2), 151–178.
- 鈴木邦雄・早瀬裕也(2025)富山県で急速に蔓延しつつあるチュウゴクアミガサハゴロモ(速報).月刊むし 648: 20–22.
- 埼玉県病害虫防除所(2024)令和6年度発生予察情報 特殊報第2号
- 東京都病害虫防除所(2024)令和6年度病害虫発生予察特殊報第2号
- 神奈川県農業技術センター(2024)令和6年度病害虫発生予察特殊報 (第1号)
- 山梨県(2024)令和6年度病害虫発生予察特殊報第2号
- 福岡県病害虫防除所(2024)令和6年度病害虫発生予察特殊報第2号
- 熊本県病害虫防除所(2024)令和6年度発生予察特殊報第1号
- 富山県農林水産総合技術センター(2025)病害虫発生予察特殊報 第1号
- 群馬県病害虫防除所(2025)令和6年度 病害虫発生予察特殊報 第2号