リョウブに発生したてんぐ巣症状は新病害か?

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東京大学大学院農学生命科学研究科
渡邊 健

 

筆者は2025年6月上旬に栃木県那須郡那須町を訪れ、自然林のなかを散策した。植生は樹林が主体であり、ミズナラ、カエデ類、ホウノキ、ヤマツツジ、アカマツ、モミ、ウラジロモミ、ヒノキ等、広葉樹と針葉樹が混生しており、林床にはミヤコザサが優占していた。散策の過程で特徴的なてんぐ巣症状が発生している樹種を見つけたので紹介する。

リョウブ(令法)とは

てんぐ巣症状が発生していたのはリョウブである。リョウブはツツジ目、リョウブ科、リョウブ属に分類される落葉広葉樹の小高木で、高さ7~9mである。樹皮に特徴があり、表面が縦に薄く長く剥がれ落ちるため、木肌は滑らかとなり、茶褐色と灰褐色のまだら模様となる。リョウブは、樹皮を生かした床柱や家具材、庭木などに用いられるとともに、春先には若芽が山菜として利用される(1)。

てんぐ巣病

てんぐ巣病は、カビ類のほか、バクテリアの一種であるファイトプラズマ、またウイルスなど多様な微生物によって引き起こされる植物病で、これらの病原が感染すると植物の茎や枝が無数に生えて密生し、「鳥の巣」のような奇形となる(2)。病名の由来は伝説上の「カラス天狗」の巣に似ていることから、「天狗巣病」がもとの漢字名である。
 筆者が見つけたリョウブのてんぐ巣症状もまさにこのような奇形であった(図1)。また、初期症状と思われる比較的軽微な奇形枝も認められた(図2)。てんぐ巣症状の部位を採取して観察したところ、枝の一部に丸い「癌腫(がんしゅ)」のようなこぶ(瘤)(図3)や、枝先端のこぶ(図4)からは無数の小枝が生えて密生していた。これが、てんぐ巣症状を形成していた(図5)。枝先端のこぶ症状から無数の小枝が生えていたため、てんぐ巣症状とこぶ症状は同じ原因によるものと思われたが、こぶ症状はバクテリアやカビによる「こぶ病」が併発している可能性もある。
 樹木類に発生するこのような奇形は、植物病原菌がつくる植物ホルモンのオーキシンやサイトカイニンの合成量が変化することにより引き起こされると言われている(3)。
 前述したようにリョウブはツツジ目、リョウブ科の植物なので、ツツジてんぐ巣病に近縁と思われる。ツツジてんぐ巣病は、エクソバシディウム菌(Exobasidium pentasporium)というカビの一種(担子菌類、もち病菌の仲間)が病原菌である(4)。
 日本植物病害大辞典(5)や日本植物病名目録(6)にはリョウブにてんぐ巣症状を起こす植物病は掲載されていないことから、新病害の可能性がある。今後、病原菌を特定し、病名を決める必要がある。

  • 図1. 林内で見つけたリョウブの「てんぐ巣症状」(右は拡大)

 

  • 図2. 軽微な「てんぐ巣症状」
  • 図3. 枝の中央部に形成されているこぶ
  • 図4. 枝の先端部に形成されたこぶ
  • 図5. 枝の先端に形成されたこぶから無数に生えている小枝
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ISSN 2758-5212 (online)