菅 康弘
はじめに
ジャガイモは全国各地で生産されているが、地下部の「イモ」(以下、塊茎と記載)の品質を損なう土壌病害の発生は深刻な問題である。また、ジャガイモは栄養繁殖で比較的容易に栽培できることから家庭菜園でも人気が高いが、病害により収穫した塊茎の外観や品質が低下すると栽培意欲が減退するだけでなく次作での対処法に悩むことになる。一般に植物病害の発生にはいろいろな要因が関係し、その防除には発生要因を考慮した方法で取り組む必要がある。このため、迅速な診断により発生病害を特定する必要がある。
ここでは、症状は似ているが原因が異なるジャガイモそうか病とジャガイモ粉状そうか病(以下、そうか病、粉状そうか病と記載。漢字で「瘡痂」と書く。カサブタのことである)を迅速に見分けるために観察するべきポイントについて解説する。
そうか病と粉状そうか病の違い
そうか病は、バクテリア(細菌)の仲間、ストレプトマイセス(Streptomyces)属の放線菌が病原体である(1)。かさぶたのようなコルク化した斑点症状が塊茎の表面にできるのが特徴で、多くの場合、コルク化した円形の病斑となるが(図1A)、陥没する場合や隆起する場合、周縁が切れ込み星形になる場合やそれらが繋がって不整形になる場合などがあり様々である(図1B)。また、土壌の水分状況等によっては病斑上に白~灰白色の菌糸(気中菌糸、胞子鎖)が見える場合がある。この症状は塊茎の表面に限られており、地上部や根に症状は現れない。
一方、粉状そうか病は原生生物であるネコブカビ菌の一種、スポンゴスポラ菌(Spongospora subterranean)による病害である。ネコブカビ類は菌糸体を形成せず、アメーバ様の変形体や耐久性の高い休眠胞子を作るのが特徴である。特に粉状そうか病では、塊茎の表面にやや赤みを帯び隆起した病斑を形成し、表皮下に休眠胞子の塊(胞子球)を形成した後、表皮が破れて土壌中に休眠胞子を放出する。このため、塊茎の病徴は、はじめ隆起したこぶを生じ(図2A)、後にかさぶた状となって(図2B)そうか病と見分けにくくなる(2)。
両病害を肉眼で判別するには、病斑の色合いやコルク化の有無、表皮の状態等に着目するほか、粉状そうか病の場合にはこぶ状の病斑がみられる場合があることや、根にこぶを生じる場合があるため(図2C)、塊茎とともに根を観察することが大切である。
圃場条件の違い
そうか病は、土壌pH6.5以上で多発する傾向があり、地温20℃以上のやや乾燥した条件下で発生し易い。しかし、病原菌の種類によっては低い土壌pHで発病することもあるので注意が必要である(3)。圃場での発病の程度は塊茎の肥大初期の降雨や土壌水分の状態に大きく左右される。
一方、粉状そうか病菌はそうか病菌よりも低温で多湿な条件を好むことから、暖かい地方の水稲の後作(春作)や低地の土壌水分が高い圃場で発生しやすい。気温が17~19℃で感染が起きやすいことから塊茎形成期以降に冷涼で多雨の年に多発する(2)。
防除対策
診断により原因が特定できれば、その後の対策方針を立てることができる。
そうか病の場合、西南地方の暖かい地域の一般生産者の間では、これまで、防除効果が高い圃場全面の土壌消毒の実施が主流であった。各種土壌消毒剤は土中でガス化して効果を発揮するが、作業者を含む人畜への危害の可能性や、周辺環境への悪影響が懸念される場合には実施できない。そのような場合には、以下に示すような土壌消毒以外の方法で発生を回避する。土壌消毒剤に頼らない手段としては、そうか病抵抗性の品種「さんじゅう丸」(4)などを導入する、各種石灰資材の投入量を加減して土壌pHを適正化(pH5.2以下を推奨)する、完熟有機物を用いた土作りを行う、種いもからの伝染を抑制するために種いも消毒(ストレプトマイシン水和剤(商品名:アグレプト水和剤)、フルアジナム水和剤(商品名:フロンサイド水和剤)等による種いも浸漬処理)を実施するなど、多様な防除技術を組み合わせると良い。また、種いも消毒に代えて、有機JASに適合した液肥のソイルサプリエキス(片倉コープアグリ製)の5倍希釈液による種いもコーティング処理でも、健全塊茎の増収に有効である(5)。
粉状そうか病の場合、土壌水分が高い場合に発生が助長されるため、額縁状に圃場の周囲に明渠を作るなどの排水対策を行う。土壌pHの調整が必要な場合にはpH5.5~6.5程度に調整する。また、前作での発生が激しく病原菌の汚染程度が高い圃場では、植え付け前にフルスルファミド粉剤(商品名:ネビジン粉剤)やフルアジナム粉剤(商品名:フロンサイド粉剤)等を土壌混和する方法を選択する。
おわりに
以上述べてきたように、両病害の違いを理解すれば、発生病害を容易に判断できる。また、検鏡や分離培養を行えばより確実な診断ができるので、判断に迷うときには病害虫防除所や研究所等の機関、植物病院、植物医師に相談すると良い。