佐藤 政宏
はじめに
美しく管理されたゴルフ場のベントグリーン※1に雑草がたくさん生えているのを見たことがない方も多いのではないだろうか。実際には、シバのように密生している植物でさえも、隙間から雑草が生えて問題となる。ベントグリーンに発生する雑草で最も駆除が難しいものはスズメノカタビラであるが、近年はメヒシバの発生が増え、多発するとシバの張替えが必要となる(図1)。そこで本稿ではメヒシバ多発の原因とその対応策について述べてみたい。
※1ベントグリーン:常緑性で寒さに強い芝草であるベントグラスを用いて造成されたグリーン。
なぜベントグリーンの雑草は問題になるのか?
ベントグリーンは、ゴルフボールの直進性を高めスムーズに転がるよう、地際から4 mm前後と極めて低く刈り込んで維持管理される。プレーヤーもグリーンキーパー※2も最も重視するグリーンの品質の一つで、通称「パッティング・クオリティ」と呼ぶ。しかし、そこに雑草が混入すると、茎葉の形が違うため、ボールがスムーズに転がらなくなるばかりか、グリーン面に凹凸が生じて跳ねるため、競技性が低下する。美観も損ねる。そのため、雑草の混入はベントグリーンの著しい品質低下であり、ゴルフ場の評価も下がる。
※2グリーンキーパー:この呼称については過去の記事(1)を参照されたい。
メヒシバはなぜ増えたか?
メヒシバは5~6月頃に発芽し、高温となる盛夏に旺盛に生育し、耕作地や公園、空き地、ときには舗装された道路等でも見られる一年生雑草である(図2)。地を這い生育するためシバ刈りで取り除くのが難しく(図3)、4 mm前後の低い草丈まで刈り込まれても出穂し、種子が自然にあるいはシバ刈機や靴底等に付着して拡がる(図4)。メヒシバの生育適温は30~35℃で、40℃強の高温環境下でもしぶとく生育する(2)。近年、夏期の猛暑が長期化するとともにメヒシバの生育適期も長期化し、これがメヒシバ増加の主な要因となっている。また、労働力不足によりメヒシバの発生初期に確認することや駆除が難しくなっていることも助長している。
具体的な防除方法
メヒシバの防除には、除草剤が最も効果的である。しかし、ベントグラスはゴルフ場内に広く植えられるノシバやコウライシバとは草の種類が異なり、除草剤に弱く薬害が起こりやすい。ベントグラスに使用可能なメヒシバの除草剤には、発生前に施用して発芽を抑える土壌処理剤と、発生しているメヒシバにのみ効果のある茎葉処理剤がある(表1)。メヒシバの発生初期は、茎葉処理剤により防除することができる。しかし、土中に潜在するメヒシバの種子量が増えて次々に発生すると茎葉処理剤のみでは防除が困難で、土壌処理剤を使わないと抑えきれない。また、ゴルフ場ごとに肥培管理や気候条件が異なるため、除草剤の効果に差がでる。したがって、薬剤の選択はグリーンキーパーの経験値によるところが大きい。それでは、グリーンキーパーはどのようなメヒシバ除草剤を使用しているのであろうか。2017~2024年の除草剤の出荷量の推移がゴルフ場防除技術研究会の資料に掲載されている(3)。ベントグリーンに使用可能でメヒシバに登録のある除草剤も掲載されており(4)、よく売れているものはグリーンキーパーからの信頼の指標と判断することができる(表2)。
おわりに
除草剤は、雑草だけに効果があるとうたわれているものであっても、条件によってはグリーンの生育を抑えるものがある。そのため、除草剤の施用に当たっては、ベントグラスの生育状態を把握する必要がある。除草剤処理後のベントグラスが健全か否かを先ず見極め、草勢に衰えが見られたり、高温の気象条件下では枯死等の薬害の発生が認められることもあるので、メヒシバが発生していても使用を止める勇気も必要である。また、メヒシバの大量発生をみたら一度にすべてを駆除しようとせず、可能であれば2~3年かけ漸減させる方向で対処することも考慮に入れる。本稿がメヒシバの効果的な防除と素晴らしいグリーンの維持管理に役立てば幸いである。