病害虫発生予察情報を活用して、植物病害虫から農作物を守ろう

福島大学
根本 文宏

はじめに

近年は暑い夏が続き、線状降水帯の発生などの気象災害により農作物を安定して生産するのが難しなってきている。また、気候変動に伴い、植物病害虫の発生状況も様変わりしており、病害虫の発生をこれまでの経験や勘のみにたよるのは困難になってきている。どのような病害虫がいつどのように発生するかを正しく知り、効率よく効果的な防除を行うためには、病害虫発生予察情報(以下、発生予察情報)を読み解き、活用することが重要である。

発生予察事業とは

農林水産省や都道府県では、発生予察事業を実施している。農作物に発生する病気や害虫を調査し、その後の気象条件等をふまえて病虫害の発生を予測し、それらを発生予察情報として農家に提供することで安定した農作物生産を支援している。発生予察事業では国が指定有害動植物(令和5年4月時点で157種類)を定めるとともに(1)、都道府県が指定有害動植物以外の有害動物又は有害植物を定めており、農林水産省と都道府県が連携して調査している(2)。そして、発生予察情報には、農家が防除適期に効果的な対策を行うための判断材料を提供するという役割がある。

発生予察情報の種類と農家が対応すべきこと

発生予察情報には、農林水産省が提供する情報と各都道府県が提供する情報がある。農家が病害虫対策で活用するものは都道府県が発表する情報で、発表する時期や重大性、緊急性により、予報、警報、注意報、特殊報の4種類がある。その中で、注意報と警報は、農作物の生産に被害が予想される時に発表されることから、発表内容に特に留意する必要がある。また、これらの情報の違いにより農家の対応にも違いがある。
予報:その時々に栽培されている作物やその生育状況を踏まえ、概ね月に1回発表される。その内容は、作物名、病害虫名、発生が予想される地域、発生時期、発生量やその根拠、防除上留意すべき事項などで、一覧にした表で示される(表1)。農家は、自分のほ場における病害虫の発生状況をふまえて防除が必要か否かを判断する。
警報:農作物生産に大きな被害が生じる恐れがあるときに発表される。そのため、農家は警報が発表された場合は、直ちに防除対策を実施するか、すぐにできるように準備する。また、近県で警報が発表された場合は、栽培作物を確認し、ほ場を良く見回って対象病害虫の発生の有無に注意する。発生が確認された場合には、防除対策をとる。
注意報:警報ほどではないが重要な病害虫が多発することが予測された場合に発表される。そのため、農家は、ほ場を良く見回っていつでも防除対策ができるように準備する。
特殊報:これまで未確認の農作物に被害を及ぼす病害虫が見つかった時などに発表される。そのため、発生地域が限定的となる場合が多い。農家は、自分のほ場が対象地域になっていないかを確認するとともに、同じ作物を栽培している場合には対象となる病害虫の発生に注意し、発生した場合に備えて防除対策を準備する。

  • 表1. 福島県病害虫防除所における令和7年度病害虫発生予察情報
    発生予報第2号(令和7年4月30日発表)より抜粋
    https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/37200b/2025-teiki.html 

発生予察情報を利活用するメリットと効果

発生予察情報には、以下のような生産者にとって有益な情報が集約されている。
① 効率的な防除計画が立てられる
一番のメリットは、防除計画が効率よく効果的に行える。発生予察情報は、病害虫がいつ、どのくらい発生しそうなのかを提供してくれるので、それを基に早めに判断ができるため、効率よく効果的な防除の実施が可能になる。
② 防除対策の費用・労力が低減できる
発生確認のタイミングが遅れて防除適期を逃した場合は、病害虫の急激な増加を抑制できずに大きな被害が生じ、大きな減収・減益となる。また、病害虫の発生前の防除(予防)は作業コスト低減などの防除効果以外のメリットが大きい。しかし一方で発生が少ない年に必要以上に防除対策を行ってしまうと防除経費の経営に占める負担が大きくなる場合がある(図1)。発生予察情報を上手に利用することにより、適期防除ができるために農薬の過剰散布を避けて使用量を削減することができるとともに、費用も労力も抑えることができる。

  • 図1. 防除対象の病害虫の発生量と最適防除の防除費用及び防除によって得られた増収額との関係(岡田、1991を改変)
    ※)A :まだ防除を必要とするほどの発生量ではないのに防除を行ったときの経済的損失
     B : 適期防除ができたときの経済的増収
     C : 防除適期を逃し、病害虫の急激な増加を抑制できできなかったときの経済的損失
     N1:これ以上発生したときに防除を実施することで利益が生じる病害虫発生量の目安
     N2:これ以上発生してから防除しても損失が出てしまう病害虫の発生量

発生予察情報の入手方法

発生予察情報は、農林水産省や都道府県病害虫防除所ホームページで公表されるほか、生産者への配布・郵送、農業者団体等を通じた情報提供など、様々な手法で提供されている。最近では、スマートフォンを利用した病害虫情報提供アプリや病害虫診断アプリから入手することもできる(3)。

おわりに

発生予察情報は、病虫害を減らして効率的な農業生産を目指すために、各都道府県の病害虫防除所において長年にわたって積み上げられてきたデータをまとめたものであり、そこには農林水産省や都道府県の職員や彼らを支える防除員の農家など、多くの人々の知恵と努力が詰まっている。是非、発生予察情報をフルに活用し、新しい技術を取り入れながら効果的で効率的な病害虫防除を実施して安定した農作物の生産につなげて欲しい。

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ISSN 2758-5212 (online)