海外旅行で植物の持ち帰りはNG?-植物にも入国審査がある-

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東京大学大学院農学生命科学研究科
前島 健作

 

コロナ禍も明け、海外旅行が再び盛んになっており、2024年の出国者数は1,300万人を超えた。旅先で見かけた珍しい花や果物、あるいは安いコメなどの農産物を帰国時にお土産にしようと考える人は多い。しかし、その行為が法律に違反する重大なリスクを伴うことはあまり理解されていない。本稿では、海外からの植物の持ち込みに対して法律に基づく厳しい規制(輸入検疫)があることを紹介する。

なぜ植物の持ち帰りが問題なのか

海外の植物には国内未発生の重要な害虫や病原体が潜んでいることがあり、国内に侵入してしまうと農作物や自然環境に甚大な被害を及ぼすリスクがある。実際にこれまで多くの病害虫が侵入し、日本の農業生産に深刻な打撃を与えてきた。こうした事態を防ぐため、海外から勝手に植物を持ち帰ることは植物防疫法により厳しく制限されている。「個人的に楽しむだけなら大丈夫」という自己判断は通用しない。

持ち帰る植物が「輸入禁止品」に当てはまると一切日本に持ち込みできず、そうでない場合も持ち込みには現地で発行された検査証明書と輸入時の検査が必要である。一般の旅行者にはハードルが高い。たとえばコメはもみ殻がついていると輸入禁止品であり、精米に加工しても持ち込みには検査証明書が必要となる(1)。検査の対象とならない植物は、高度に加工されるなどして病害虫付着の恐れがないものに限られる(2)。

違反者には厳しい罰則がある

違反者には、3年以下の懲役または300万円以下(法人は5,000万円以下)の罰金が科される場合がある。2024年にはインバウンドを含め26万件の違反が起きており(3)、実際に刑罰に至る事例も公表されている。国際空港などでは麻薬探知犬ならぬ検疫探知犬も配備され、荷物に潜む違反品の摘発が行われている。

生産者自身が被害を出さないために

農業生産者や身近な者は、より一層注意する必要がある。海外で珍しい品種の種子や苗を購入したり譲り受けたりして持ち帰った場合、たとえ健全そうに見えたとしても、病害虫が付着していれば真っ先に被害を受けるのは自分や近隣の農産物となってしまう。また、植物防疫法だけでなく、ワシントン条約や知的財産の観点から国際問題になる恐れがある。海外から導入したい植物や品種がある場合、植物防疫所などに問い合わせ輸入手続きののち検査を受け、許可を得ることが不可欠である。

植物の持ち込みがもたらすリスクは現地を旅行しているときには実感しにくい。しかし、実際には日本の農業生産に大きな損害を与える恐れがあり、また検疫で没収されれば大切な旅の最後につらい経験をすることとなるかも知れない。高い意識を持つことが必要である。各国の国際空港・港湾では植物の検疫に関する情報が提供されているため(図1)、旅先で見かけた際は植物の持ち込みリスクについて改めて思い出し、それぞれの国の対策を知ってほしい。なお、肉や肉製品の持ち込みも家畜伝染病の侵入防止の観点から原則禁止である。ハムやソーセージ、乾燥肉などの加工品であっても、勝手に持ち込むと没収されるだけでなく罰則の対象となる。

  • 図1. 国際空港における植物・動物の持ち込み規制の広告
    A: 配布されているリーフレット(左から日本、台湾、韓国)
    B: 持ち込みに対する警告(台湾)
    C: 持ち込み規制品のディスプレイ(韓国)
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ISSN 2758-5212 (online)