中保 一浩
はじめに
トマト栽培は主要な産地が形成され、施設栽培も進んだが、それにともない連作障害が問題となり、土壌伝染性の難防除病害のひとつである青枯病が各地で発生し大きな問題となっている。青枯病はバクテリア(細菌)によって起こる植物病である。その予防法のひとつとして、青枯病に抵抗性の台木品種を接いだ苗による栽培が広く普及している。しかし、これまでの苗では、栽培条件によっては青枯病にかかってしまうことがあり、より予防効果の高い苗の開発が求められていた。本稿では、台木の抵抗性を最大限に発揮させることのできる新たな接ぎ木法(以下、高接ぎ木法とする)を開発したので、その概要について紹介する。
高接ぎ木法とは
台木品種の青枯病抵抗性は、病原細菌に感染しても発病が抑制される「耐病性」であり、植物体内(茎部)で青枯病菌の増殖と全身への移行を抑制する(1)。高接ぎ木法は、このような台木品種の特性を利用したものであるが、方法は簡単で、通常の接ぎ木(接ぎ木部位:子葉上)より高い位置(同:地際から 10 cm 以上)に穂木を接いだ苗を作り使うと、青枯病を予防できる(図1)(2、3)。こうして作った高接ぎ木トマト苗は、台木品種の持つ耐病性の機能を最大限に生かすことができ、青枯病菌の穂木への感染、発病を抑制する(図2)。耐病性のより高い台木品種を利用するほど、高い発病抑制効果を発揮する。現地試験により高接ぎ木栽培は夏秋、半促成、促成および抑制作等、全ての作型で慣行接ぎ木栽培よりも高い青枯病予防効果がある(図3)。また、高接ぎ木栽培による生育、収量及び品質等の栽培特性は、作型や栽培地域にかかわらずこれまでの接ぎ木栽培と同じであり、栽培管理上の問題点は認められていない。
高接ぎ木栽培の活用
この技術は41都道府県の生産者の圃場で活用され、11道県では普及すべき道県の指導技術として採用された(2016年5月現在)。高接ぎ木法は、これまでの栽培体系を変える必要がなく、これまで以上の青枯病予防効果があり、しかも苗本来の抵抗性を活用することから環境に優しい栽培法である。この苗は高接ぎハイレッグ苗として商品化され、生産者への供給体制が整っている(4)。そのため、誰でも苗を手に入れることができ、誰でも手軽に青枯病を予防することができる。
おわりに
トマト青枯病は高温を好み、水を介して伝染することから温暖化により被害が拡大する可能性のある重要病害である。現在は夏期に被害が大きい青枯病が春秋期や寒冷地、高冷地にも拡大する恐れもあり、これら地域における本病への対策が求められている。高接ぎ木法は台木の抵抗性を活用したこれまでの接ぎ木法よりも青枯病菌の感染を効果的に予防する新たな方法である。このほか、土壌の深層に生息する青枯病菌の防除法として可溶性の糖を含む糖含有珪藻土や糖蜜吸着資材を用いた土壌還元消毒も開発されている(5、6)。この新たな土壌還元消毒法と高接ぎ栽培を組み合わせることで持続的に青枯病を防除することが期待できる。
引用文献
- 中保一浩(2008)「接ぎ木トマトの青枯病発病過程と抵抗性(品種抵抗性,誘導抵抗性)を利用した青枯病防除」植物防疫 62(2): 59-63.
- 農研機構(2012)「高接ぎ木法を核としたトマト青枯病総合防除技術」
- 中保一浩ら(2013)「高接ぎ木法によるトマト青枯病総合防除」農業技術大系土壌施肥編 第5-1巻:畑106: 12-30.
- ベルグアース株式会社「高接ぎハイレッグ苗」
- 農研機構(2019)「新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫防除体系マニュアル」技術紹介パンフレット
- 農研機構(2021)「新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫防除体系標準作業手順書」標準作業手順書(SOP)利用者サイト