ピーマン青枯病は転炉スラグを投入すると被害を軽減できる

岩手県農業研究センター
松橋伊織・岩舘康哉

はじめに

近年、夏が異常に暑い。特に2023年から2年連続で、日本の観測史上もっとも暑い夏が続いた。岩手県は夏秋ピーマンの主要産地であるが、地温が高いほど発生しやすい「青枯病」の被害が拡大し問題となった。ここでは、転炉スラグを利用した青枯病の被害軽減策について紹介する。

ピーマン青枯病

青枯病は、バクテリア(細菌)が原因で発生するナス科作物の重要な植物病である。感染すると晴れた日中、急にしおれ、朝や夕方、曇天や雨天時には一時的に回復するが、最後は枯れてしまう(図1)。「しおれた株」がみられた時は青枯病が疑われるので、根元近くの茎を切断し、水に浸すと診断できる。茎の切断面から白く濁った「もや」のような菌泥(きんでい)が出てくれば、青枯病と考えてよい(図2)。
本病は土壌伝染だけでなく、管理作業でハサミなどを使用すると、それに付いた汁液を介しても伝染する。いったん栽培してしまうと対策はなく、感染拡大を防ぐために発病株を抜き取るほかない。また、被害がひどい畑では毎回土壌消毒が必要となるため、作業やコスト面での負荷が大きい。青枯病に強い台木を利用した接ぎ木栽培は有効な対策だが、初期生育が遅れるほか種苗費も高くつくことから、使用をためらう農家も多い。

  • 図1. ピーマン青枯病のしおれ・枯死株
  • 図2. 水に浸した茎の切断面から出てくる白く濁った青枯病菌の菌泥(きんでい)

転炉スラグを用いた土壌の酸度矯正

転炉スラグは製鉄所で生成される副産物であり(1)、ケイ酸カルシウムが主成分である。土壌の酸度矯正に利用できる(図3)。転炉スラグは、地域によって価格は異なるが岩手県では630円/20kg程度でJAを通じて入手できる。これを用いて土壌pH(H2O)を7.5程度に矯正すると、本病の被害が軽減できる(図4)。この技術は台木栽培だけでなく、自根栽培でも有効である(2)。転炉スラグは、鉄・ホウ素・マンガンなどの微量要素を豊富に含んでおり、pHを7以上まで高めても作物に微量要素欠乏は発生せず、既存の石灰資材に比べ優れた酸性改良持続効果をもつ(1)。ピーマン青枯病だけでなく、トマト青枯病対策にも効果がある(3)。
土壌pHを7.5に矯正するために必要な転炉スラグの量は、土壌の種類や投入時のpHによっても異なる。処理量は土壌緩衝能曲線(4)を作成して決定するので、指導機関に相談するとよい。畑全体の処理が難しい場合は、栽培する畝部分のみに施用して矯正することもできる。10cm~20cmの深さで処理すると実用的な効果が得られる。通常、ロータリー耕で混和するが、処理深度を深くすると転炉スラグの処理量とコストが増えるので、経済性を考慮して判断する。これまでの実証では、土壌pHを7.5に矯正してもピーマンの生育に悪影響は確認されていない(図5)。

  • 図3. 粉状の転炉スラグ(A)と転炉スラグ散布中のハウス(B)

 

  • 図4. 転炉スラグを用いた土壌pH矯正による青枯病の被害軽減効果
    A.青枯病の発病が少ない転炉スラグ処理区
    B.青枯病の発病が多い無処理区

 

  • 図5. 土壌pHを矯正しても生育への悪影響は認められない

転炉スラグは殺菌剤ではない

転炉スラグを用いて土壌pHを高めても青枯病菌は死滅しない。そのため、機械作業や長靴に付着した汚染土の拡散に注意する必要がある。農作業の終了時には農機具や農具の洗浄などを徹底するべきである。そのほか、汁液を介した感染は防止しにくいので、芽かきや下葉かきなどの管理作業は晴れた日に行い、作業後の傷口がよく乾くように注意する。
転炉スラグを用いた土壌pHの矯正は初期費用こそかかるものの、効果が持続することがメリットである。この土壌pH矯正技術は、青枯病対策以外でも活用されており、アブラナ科野菜根こぶ病対策では、一度の処理で10年以上も効果が持続した例がある(5)。導入後2年目以降は、作付け1~2か月前には土壌pHを確認する。このpHが維持されていれば追加処理は不要であり、費用と労力の削減が長期的に期待できる。転炉スラグ処理後2年程度はアルカリ効果によって地力窒素の発現が高まるため、基肥の施用量を最少限に抑え、追肥を主体に肥培管理する。3年目以降は土壌診断結果を踏まえた通常の施肥設計とする。なお、排水不良の畑では十分な効果が得られないので、転炉スラグ技術を適用する前にサブソイラを用いるなど、事前に排水性を改善する。

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ISSN 2758-5212 (online)