ニホンジカやイノシシの個体数は捕獲強化によって管理できるのか?

静岡県農林技術研究所 伊豆農業研究センター
片井 祐介

はじめに

ニホンジカやイノシシによる農林業の被害は特に多いため、捕獲が強化されてきた。環境省・農林水産省では、法律の改正や補助金など様々な対策により現場での捕獲を都道府県・市町村単位で支援し、捕獲体制を強化している。本稿では、この捕獲強化によってニホンジカとイノシシの個体数がどのように推移しているか紹介する。

推定個体数の推移

自然界に生息しているニホンジカ、イノシシの個体数を推定することは極めて難しい。様々な推定法があるが、環境省では、捕獲数、狩猟者数、自然増加率などから統計的に推定する方法を用いている。この方法では推定した時点の数値によって過去の数値も変動するため、環境省の資料は発表時期により過去の個体数が異なる。本稿では2024年4月26日発表の資料(1)を用いて説明する。なお、個体数の推定値には幅が出てくるため中央値を用いる。推定値の幅を知りたい場合は参考資料を参照していただきたい。

 2022年のニホンジカ(本州以南)の推定個体数は約246万頭、イノシシは約78万頭である。一方、2013年の推定個体数は、ニホンジカ(本州以南)は約258万頭、イノシシは約130万頭であり、9年間でニホンジカの個体数はあまり減少していないが、イノシシの個体数は約4割減少した(図1, 2)。
2022年のニホンジカ(本州以南)捕獲頭数は、57万頭であった。しかし、新たに生まれてくる仔も多いため、現状の捕獲数ではニホンジカを効果的に減らすことは難しい。また、イノシシの捕獲頭数は59万頭であった。イノシシは1頭の雌から毎年4~5頭の仔が産まれるため、現在の捕獲頭数を維持していかないと総個体数が増えてしまう恐れがある。環境省では、2028年に2011年の推定個体数を半減することを目標としており、捕獲体制の強化を図っている。
このように、ニホンジカやイノシシの個体数を管理するためには、捕獲という手段は有効である。ただし、野生動物を捕獲できるのは狩猟免許を有する狩猟者(ハンター)のみである。

狩猟免許:狩猟をしようとする者が受けなければならない免許。都道府県知事が狩猟免状を交付して免許をする。

  • 図1. ニホンジカ(本州以南)の推定個体数の推移
    出典:環境省HP(http://www.env.go.jp/content/000219778.pdf)

 

  • 図2. イノシシの推定個体数の推移
    出典:環境省HP(http://www.env.go.jp/content/000219778.pdf)

おわりに:狩猟免許取得のススメ

新規の狩猟免許取得者も多く、狩猟者数は総数だけ見ると増加している(図3)。狩猟免許は猟法の種類に応じて4種類(網猟、わな猟(図4)、第一種銃猟(装薬銃)、第二種銃猟(空気銃))に区分される。新規の狩猟免許取得者はわな猟が多く、第一種銃猟は減少している。銃猟免許を有する狩猟者が高齢化していることもあり、わなを用いて捕獲するイノシシについては捕獲数が維持できるものの、銃猟によるシカ捕獲数の維持は困難な状況である。
行政では捕獲対策として、既存の狩猟者の技術向上や新規の狩猟者の育成などを進めている。近年、通称「狩りガール」と呼ばれる女性狩猟者も増加している。鳥獣被害に悩んでいる生産者の皆さん、是非狩猟免許を取得して、野生動物管理の担い手になってみませんか?

  • 図3. 種類別狩猟免許取得者の推移
  • 図4. 箱罠で捕獲されたイノシシ
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ISSN 2758-5212 (online)