農業現場で使える遺伝子診断技術「LAMP法」

東京大学 大学院農学生命科学研究科
和田 宗士
前島 健作*
*責任著者

はじめに

農作物の植物病による被害は収量や品質に深刻な打撃を与え、農業生産に大きな損失をもたらしており、世界の可能作物生産額の約35%が植物病によって失われているとされる(1)。とくに近年、気候変動やグローバル化による流通拡大により、植物病の発生や拡散のリスクが高まっている。なかでも微生物病はカビ、バクテリア、ウイルス、センチュウなどの微生物によって起こるが、小さいため気付きにくい。
微生物病の感染拡大抑止のためには、発病前の早期段階に気づき、これらの病原体を除去することが重要である。しかし感染初期の場合、無症状なことが多く、これらの微生物は肉眼により見つけにくいため、現場で早期発見できる検出技術が重要となる。
これらの課題を解決する手法として、近年注目されている「等温増幅法」による遺伝子診断がある。

LAMP法とは

等温増幅法は一定温度下で遺伝子を増幅する技術の総称で、代表的な方法がLAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法である(2)。PCR法のように温度を変化させる必要がなく、一定温度(60~65℃)を維持するだけで反応が進む。そのため、高価な機器を必要とせず、保温ポットなどの簡易な保温装置があれば十分である(表1)。
PCR法では、増幅したいDNA配列に対して2種類のプライマー※※を使い、その間の領域を増幅する。一方で、LAMP法では増幅したいDNA配列のなかに4~6本のプライマーを設計して遺伝子増幅※※※を行う。LAMP法では、増幅したいDNA配列の多くの異なる部位をプライマーが認識する必要があるため、PCR法に比べターゲットだけをより確実に見分けられる。
LAMP法の原理は、文字に書くと若干分かりにくいが、次のようになる。一つのプライマーがDNA合成を開始すると、中途で他のプライマーが合成したDNAを引き剥がし、またプライマーが合成を折り返す役割を果たすよう設計されているため、増幅したいDNA配列の範囲で繰返しDNA合成が起こるようになる。結果的に同じ範囲の配列を限りなく繰り返して増幅し、長いDNAが合成される(3)。この増幅反応は絶え間なく進むので、60分以内という短時間に大量のDNAが合成される。LAMP法ではDNA合成反応時に生じる副産物を混濁や蛍光発色により視覚的に確認できるため(図1)、必ずしも測定装置がなくとも判断可能である。そして、操作も簡便なため、現場で迅速に診断するのに向いている。近年は農業分野での応用も拡大しており、様々な植物病原体に利用されつつある。

PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。DNAの特定の領域を短時間で数百万から数十億倍に増幅させる技術で、微量のDNAサンプルから目的のDNA断片を効率的に増やすことができる。
※※DNA複製やPCRなどの遺伝子増幅反応において、DNA合成の開始点となる短い核酸鎖のこと。
※※※遺伝子の数が増えること。

  • 表1. LAMP法とPCR法の比較
  • 図1. LAMP法による遺伝子診断
    A. LAMP法による診断作業手順
    B. LAMP反応に使用する保温容器
    C. 実際の反応後の試験チューブ(左 : 陰性、右 : 陽性)

植物病の診断で活躍するLAMP法

現在、LAMP法を用いた検出キットが多数開発されており、農業現場や植物検疫の現場で活用されている。現場でLAMP法を使用する手順を図1に紹介する(1)。
まず、発病植物体から検査したい部位を切り出し、抽出液中で加熱処理し、病原体の核酸を溶出させる。ウイルス病の場合はさらに簡便で、植物を爪楊枝で突くだけで抽出できる場合が多い。LAMP反応用のチューブにはあらかじめ必要な試薬が入っているため、そこに抽出液を加えて蓋をし、60〜65℃の一定温度に保つ。約60分間温めると、検出対象の病原体が含まれる場合は核酸の増幅反応が起こる。反応後、チューブ内の色や濁り方の変化を見て、病原体の有無を診断する。ただし、反応後はチューブを開けないよう注意が必要である。LAMP法は高感度なので、開けると次回以降の検査に影響を与える可能性がある。
実際に開発された検出キットを表2および図2で紹介する(1, 4)。カビ(例:サツマイモ基腐病(5)、アブラナ科野菜根こぶ病(6))、バクテリア(例:リベリバクター病、ピシウム病)、ファイトプラズマ(7)、ウイルス(例:ウメ輪紋病、イチジクモザイク病(8))、センチュウ(例:マツ枯病)などの検出キットが販売されている。なお、LAMP法にかかるコストは、1テストあたり1,000円程度である。

  • 表2. 市販されているLAMP法による診断キット
  • 図2. LAMP法による診断キットの例
    A. サツマイモ基腐病
    B. プラムポックス(ウメ輪紋病など)

おわりに

以上述べてきたように、LAMP法は現場ですぐに使える強力な診断技術である。植物病の早期発見や感染拡大の抑止に役立つため、今後ますます活用が広がると期待される。そのためにも、さらに多くの病原体を対象としたLAMP法診断技術の開発を進める必要がある。

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ISSN 2758-5212 (online)