佐藤 政宏
はじめに
シバの害虫となる「ガ(蛾)類」はいくつか知られているが、寒冷地や標高の高い地域を除く大半の日本のゴルフ場のシバで問題になるのは主にシバツトガ、スジキリヨトウ、タマナヤガの3種類である(図A~I)。いずれも4月〜9月末に発生し、4月下旬~5月、6月、8月頃の年3回が発生のピークである(1、2)。現場管理者のグリーンキーパー(以下GK)によれば、近年は温暖化により3月中旬〜10月末までと、2ヵ月ほど発生期間が延びており、発生ピークも分かりにくくなり、そのため防除回数も増加しているとのことである。ここではシバにおけるガ類害虫の発生期間長期化に対する対応策について述べてみたい。
- 図1. シバの害虫
A: シバツトガの幼虫
孵化直後の体長は1mm程だが老熟幼虫(6齢)は20mmに達する。図は5~6齢。
B: シバツトガ成虫
体長は8~10mm程度。前翅の開帳時は20mm程になる。
C: シバツトガが作る苞(ツト)
大きさはまちまちであるが、図のものは20mm程度。土粒やシバ滓(かす)で作られていて、この中で生活し蛹化する。この害虫の名前の由来である。コース点検での予察時に重要な指標となる。
D: スジキリヨトウの幼虫
これは体長約30mmほどの老熟幼虫(6齢)。
E: スジキリヨトウの成虫
体長は10~15mm程度である。
F: スジキリヨトウの卵塊
ゴルフ場ラフのノシバに産み付けられた卵塊。白い綿状の鱗毛で覆われており、この中に多数の卵がある。大きさはまちまちで5mm程度のものから30mm程に達するものもある。プレーの難易度を高めるため刈込高を高くした“ヘビーラフ”などは格好の産卵場所となる事がある。
G: ゴルフ場ラフのノシバにみられたシバツトガの被害
一見すると乾燥害に見える。
H: ゴルフ場ラフのノシバにみられたスジキリヨトウの若齢幼虫(1~2齢)による被害
葉がまだら状に白化している。発生予察の重要な指標である。
I: タマナヤガの幼虫
これは体長約40~45mmほどの老齢幼虫(6齢)。
防除対策
防除の主流は化学農薬散布である。近年は低薬量で残効期間も長いさまざまな系統の殺虫剤が開発・販売されている。前項で述べたとおり防除回数は増えており、ガ類は短い周期で発生を繰り返すため抵抗性出現の可能性も高い※。野菜などの農産物ではすでにネオニコチノイド系のクロチアニジン水和剤(シバ用商品名:フルスウィング顆粒水和剤)、フィプロール系のフィプロニル水和剤(シバ用商品名:トップチョイスフロアブル)などの農薬に対する抵抗性害虫が出現している(3、4)ため、シバでも同様であると考えられる。そこでかつて基幹防除剤として使われていたが、散布量が多い、残効期間が短い、臭気が強いなどのため現在その利用が減少している有機リン系殺虫剤を見直す必要があろう。代表的な有機リン系殺虫剤としてイソキサチオン乳剤(商品名:カルホス乳剤)、プロチオホス乳剤(商品名:トクチオン乳剤)、アセフェート水和剤(商品名:オルトラン水和剤)などがある。現場GKには前時代的な農薬であると思われているかもしれないが、有機リン系殺虫剤を防除体系に組み込むことは、薬剤の多様化により抵抗性発達を回避するためにも有効な手段である。またイソキサチオン乳剤(カルホス乳剤)を例にあげるとガ類のほか、コガネムシ類の甲虫類、ケラやカイガラムシなど、ガ類以外の害虫にも効果がある(5)。すでに製品化され販売されているものもあるが、有機リン系殺虫剤のマイクロカプセル製剤化の推進が期待される。これは高分子膜で農薬原体を被覆することで、時間をかけて緩やかに成分が放出され、残効期間が長期化される他に臭気が軽減されるなどの効果がある。
※抵抗性を持っている殺虫剤が効きにくい個体はわずかに存在する。同じ系統の殺虫剤を連用するとその個体は生き残り防除のたびに増えていき効果は薄くなってゆく。ライフサイクルが短く防除回数が多い害虫ほど同じ系統の殺虫剤の連用による効力低下は著しくなる。
おわりに
温暖化は進んでおり、特に6月下旬から9月中旬にかけての猛暑化は今後より顕著になると思われる。将来その期間の日中はゴルフプレーが難しくなるかもしれない。ゴルフ場営業者の対応策の一つとして気温の下がる夕方から日没後のプレーのためにナイター設備の導入を検討する可能性がある。しかしこれは巨大な誘虫灯を設置することに等しく、ガ類の被害を助長する恐れがある。今後のガ類防除には有機リン系殺虫剤をローテーションに加えた防除体系の確立が必要となるであろう。
