レター
静岡県農林技術研究所 伊豆農業研究センター
片井 祐介
イノシシによる農業被害を減らすための捕獲は、農業生産現場の周辺で行うように推奨されている。その理由はなぜだろうか? イノシシの行動調査からその理由を探ってみたい。
イノシシの行動調査
近年、シカやクマ、サルなどにGPS装置をつけ、長期間にわたり調査を行い、行動様式などが徐々に明らかになってきている。しかし、イノシシのばあい行動調査を行うのは非常に難しい。調査に用いるGPS装置は首輪型になっているため、首の凹凸が少ないイノシシに装着しても安定感が悪く、短期間で脱落してしまうことが多いからである。そのため、イノシシの行動調査の記録は、GPS装置を複数個体につけて数ヶ月にわたり調査を行った例など数えるぐらいしかない(1〜3)。
兵庫県の事例では、生産現場を中心にその活動圏は3.4±2.9 km2(ある個体では1.5×3km程度の範囲)であり大型獣としては比較的狭かった。また、複数の個体が雌雄関係なく同じ範囲で活動していることが明らかになった(1)。山梨県の事例では、調査した6個体のうち1個体は森林外に出ることはなく森林の縁(林縁)から半径1 km以内の森林内で活動していた。残り5個体は、日中は林縁から半径200 m以内で活動し、夜間に森林外の耕作放棄地や畑に出没していた(2)。
イノシシの捕獲は生産現場周辺で
以上の事例から、生産現場に出没するイノシシの活動は生産現場と林縁部に集中しており、あまり広域ではない。したがって、被害対策としての捕獲は、被害が発生している生産現場周辺で行うのがよい。また複数の個体が同一地域で活動しているため、捕獲作業も集中的かつ効率的に行うことができる。