貯蔵中のサツマイモを加害するハスモンヨトウの幼虫

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東京大学大学院農学生命科学研究科
渡邊 健

ハスモンヨトウはチョウ目の害虫で、イネ科を除くほとんどの作物を加害する。サツマイモの場合、主な被害は幼虫による葉の食害であり、中~老齢幼虫に加害された葉は葉脈や葉柄しか残らないほどの被害を生じる(1)。筆者はこれまでいも(塊根)への被害は見たことがなかったが、今回、貯蔵中のいもへの加害事例が生じたので紹介したい。

被害いもの状況

いもの表面に5~10 mm程度の円形~楕円形、深さも5~10 mm程度の深い穴が生じていた。このような穴の生じたいもは、いも20 kgが詰められたコンテナ内に3本程度見つかった(図1)。穴の中を観察したところ、内部にチョウ目の幼虫が潜んでいた(図2)が、見つかったのは1頭のみである。したがって、複数のいもを加害したのは1頭の幼虫と推察された。幼虫を取り出して観察したところハスモンヨトウであることがわかり、いもを与えると亀裂に潜り込んで食害する様子が観察された(図3)。

  • 図1. 複数のいも表面に認められた穴
  • 図2. いもの穴の中に潜むチョウ目幼虫
  • 図3. 餌として与えたいもの亀裂に潜り込んで食害するハスモンヨトウ幼虫

どうして貯蔵中のいもが加害されたのか?

ハスモンヨトウは加温施設や暖かい地域では幼虫が土中に潜り越冬すると言われているが、一般的には休眠性がないため寒さに弱い(1)。一方、サツマイモは、温度13℃、湿度90%以上の条件に設定された貯蔵庫で保管されているため、本種が貯蔵庫内に侵入した場合、餌さえあれば生存可能と考えられる。今回の事例は、葉についていた幼虫や卵が、サツマイモ収穫時にいもと一緒にプラスチックコンテナに混入したために起こったものと推察される。

いもの被害を防ぐために

ハスモンヨトウ幼虫によるいもの被害は、実際にはサツマイモ生産上大きな問題にはなり得ない。しかし、家庭菜園で大切に育てたサツマイモを追熟させて美味しく食べるために貯蔵していた場合には、本種の幼虫に加害される可能性がある。したがって、家庭菜園であってもサツマイモの生育期に本種をきちんと防除したい。老齢幼虫は日中には活動せず、下葉の裏や土中の浅いところに潜んでいることが多い。本種の防除に有効なサツマイモに登録のある農薬(BT剤などの生物農薬含む)(1)を用いて、葉の裏側にも良くかかるように散布することが大切である。

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ISSN 2758-5212 (online)