ウメの古くて新しい脅威? 〜葉縁えそ病とは〜

東京大学大学院農学生命科学研究科 木村 完
東京大学大学院農学生命科学研究科 前島 健作*

*責任著者

はじめに

ウメは弥生時代に日本に伝来したとされ、観賞用や食用として古来より親しまれ、国内で広く栽培されている。2009年にウメ輪紋ウイルス(PPV)による病気が国内で初めて報告され、全国的に大きな問題となった(1)。一方で、ウメの主産地である和歌山県では別の病気である葉縁えそ病(茶がす症)による被害が1980年代から問題となっている。近年、その病原としてスモモ樹皮えそステムピッティング随伴ウイルス(PBNSPaV)およびリトルチェリーウイルス2(LChV-2)という2種のウイルスが提唱された(2)。ここでは、葉縁えそ病の症状と両ウイルスの特徴について概説する。

葉縁えそ病の症状

本病は、葉縁のえそや早期落葉を引き起こすほか、雌しべと雄しべの萎縮、花器の小型化や着花数の減少を引き起こすことで、大幅な減収をもたらす。病原と推定される上述のウイルスは、単独の感染でも症状を引き起こし、2種が重複して感染する(重複感染)と症状がひどくなる(2)。これらの症状は品種「南高」で知られているが、症状の程度には品種間差がある(3)。

ウイルスの伝染方法と宿主

両ウイルスは接ぎ木によって伝染する。LChV-2は2種のコナカイガラムシ(国内未報告)に媒介されるが、国内でウメに寄生するカイガラムシ類に媒介されるかどうかは未検証である。PBNSPaVの媒介者は不明だが、LChV-2と同属のウイルスなので、同様にカイガラムシ類により媒介される可能性がある。両ウイルスが種子を介して伝染する事例は報告されていない。
なお、PBNSPaVは多くのサクラ属植物(アーモンド、アンズ、オウトウ、モモ、プルーンなどの各種果樹およびサクラなど)に感染する。LChV-2はオウトウおよびサクラなどに感染する。

ウイルスの分布状況

国内では、和歌山県(ウメ)に加えて京都府(サクラ)において両ウイルスが、青森県・山形県・岩手県(オウトウ)および東京都(サクラ)においてLChV-2が報告されている(4)。筆者らも国内11都府県約50検体のウメを試験的に検査したところ、LChV-2については3府県(陽性率1割未満)、PBNSPaVについては7都府県(陽性率約3割)で新たに感染を確認できた。このうち、一部の地域では重複感染の事例も確認された。ただし、これらは限定的な調査にすぎないため、実際のウイルスの分布は広範囲にわたる可能性がある。

蔓延防止のために

本病の蔓延と被害を抑止するためには、産地においてこれらウイルスの感染の程度を把握しておくことや、導入する苗木の健全性を検査し潜在的なリスクを低減することが重要であろう。ウイルス感染を検査する方法としては遺伝子検査が有用であり(2)、植物病院のほか多くの試験研究機関でも検査可能と思われる。感染が心配な場合、まずは気軽に検査の相談をしてみるとよいだろう。

おわりに

近年病原が提唱された葉縁えそ病は、ウメの古くて新しい病気と言える。症状は典型的なウイルス性の病徴とは違ってわかりづらく、老化による樹勢の低下と混同されて「見えない」被害(5)となっていたケースもあるのではないだろうか(図1)。まだ両ウイルスの国内分布や病原性の品種間差、媒介者などの基礎的な知見が不足しているため、ウメ産業においてどの程度の脅威となるかは未知数の部分が多く、今後の研究を注視する必要がある。

  • 図1. PBNSPaVおよびLChV-2の感染率が高い園地において頻繁に観察されたウメの早期落葉
    A. 9月中旬に撮影したウメの枝。わずかに葉が残っているが、ほとんど落葉している。
    B. 10月初旬に撮影したウメ。多くの枝で落葉が進み、まばらに葉が残る程度。
    (ただし、これら早期落葉にウイルス感染がどの程度寄与しているかは要検証)
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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)