ヒトの目には見えない紫外光を浴びたイチゴは病気に強くなる-1

兵庫県立農林水産技術総合センター 淡路農業技術センター
神頭 武嗣

はじめに

日本のイチゴは1980年代後半「とよのか」「女峰」の2大品種が市場を寡占していたが、その後民間の育種家による「章姫」や各都道府県の独自品種である「とちおとめ」「紅ほっぺ」「さがほのか」「福岡S6号(ブランド名:あまおう)」等の品種が開発された。しかし、おいしさ優先で品種改良されてきたことから、病気に対する抵抗性はあまり重視されていなかった。そのため、うどんこ病や炭疽病の防除が必要で、防除手段の中心は農薬(殺菌剤)散布だった。けれども、殺菌剤散布だけでは、病原菌が殺菌剤に強くなる「耐性菌」となることも多く、他の防除手段も必要とされた。ここでは、民間企業とともにイチゴうどんこ病を防除するために開発した紫外光(UV-B)による防除システムについて解説する。さらに、組み合わせ技術として光反射シートを用いることでハダニの防除もできるようになっている。ハダニへの防除効果については次回に紹介する。

紫外光(UV-B)によるイチゴの病気に対する抵抗力の向上

普段、ヒトに見えている光は「可視光」と呼ばれ、波長を持った粒子である。約400 nm~700 nmの波長で、これより短い光が紫外光(あるいは紫外線)、逆に長い光は赤外光と呼ばれる。紫外光は、さらに「可視光」に近い方(波長の長い方)からUV-A、UV-B、UV-Cに分類される。今回紹介するのは主にUV-Bを照らして植物を丈夫にし、病気に罹りにくくする技術である。
ハウス内で高所から鉛直方向(下向き)に紫外光(UV-B)蛍光灯を照射することにより、その光を一定量浴びたイチゴの体内では、病原菌の細胞壁を溶かす酵素(いわゆる感染特異的タンパク質)の遺伝子などが発現し、イチゴ自身が病気に強くなる。この原理を応用して、ハウス内にUV-B蛍光灯を適正に配置し、薬剤散布だけでは防除が難しい「うどんこ病」を抑える技術である(1)。
ハウスの形状や栽培様式(土耕栽培、高設栽培の違い)によっても配置方法が異なるので、詳細はメーカー(パナソニックライティングデバイス株式会社)のホームページ(2)で確認していただきたいが、基本の設置基準は蛍光灯ソケットの下面から畝面までの距離を2 m、蛍光灯と蛍光灯の距離は4.5 mである。毎日夜間3時間(基本は22時から午前1時)の点灯により、うどんこ病に強いイチゴになる。あくまで予防効果なので、発病前からの点灯が重要である。なお、紫外光は日焼けや雪眼になる可能性があるので、蛍光灯を直接見ないことと皮膚をさらさないことに注意が必要である。タイマーによる夜間の自動点灯なので、日中の作業の妨げにもならず、いつの間にかイチゴが丈夫に育つ技術である。なお、紫外光そのものは目に見えないが、点灯に気づかず無意識に紫外光を浴びてしまうと危険なため、UV-B蛍光灯点灯時には青く光って、点灯状態がわかるようになっている(図1, 2)。
設置に当たっては、メーカーや「紫外光照射を基幹としたイチゴの病害虫防除マニュアル ~技術編~」(1)に記載された研究機関などに問い合わせ、実際に点灯して適正な紫外光強度が確保されているか、専用の紫外線強度測定器で測ってもらうことが望ましい。

  • 図1. 兵庫県立農林水産技術総合センターにおける紫外光照射試験状況
    点灯がわかるように青く光るようにしている。(田中雅也氏原図)
  • 図2. 紫外線を浴びたイチゴはうどんこ病に強くなる
    左:UV-Bを浴びて丈夫に育ったイチゴ
    右:UV-Bが当たらず、うどんこ病に罹ったイチゴ
    品種はいずれも「章姫」。
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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)