カンキツグリーニング病とミカンキジラミの診断ポイント

農研機構植物防疫研究部門
藤川 貴史

はじめに

カンキツグリーニング病は、世界中のカンキツ主要栽培地域で猛威をふるっている病害である。日本では奄美群島(鹿児島県)の一部と沖縄県で発生しているものの、本州、九州、四国といったカンキツ主産地では本病が発生していないこともあって、その脅威が十分に知られていない。ここでは、本病の紹介並びに発症樹や媒介虫の診断ポイントを紹介する。

カンキツグリーニング病とは

ミカンやオレンジ、グレープフルーツ等カンキツ類全般で発症する細菌病であり、中国語名から黄龍病(Huanglongbing)やHLB病とも呼ばれる。本病にかかったカンキツ樹では果実の収穫量減少や生育不良、品質の悪化が見られ、樹体は発育不良により速やかに枯死する(1)。図1Aで見られるように、葉がわい化したり落葉したりするため、樹体に異常があることには気づきやすいと思われる。また、果実は奇形や小果、未熟なまま(果皮が緑色のまま)などの異常果となるため(図1B)、やはり生産者にとっては異常に気づきやすいと思われる。ただし、生理障害や根部障害のような症状を示すことも多いため、本病を目視だけで診断することは専門家でも難しく、遺伝子検査を含む様々な手法を組み合わせて総合的な診断が不可欠である。間違えやすい症状としては、亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウムといった微量元素の欠乏症(図2A)や、窒素やカリウムなどの樹体内で移動しやすい元素の欠乏症(図2B)といった生理障害がある。また、カンキツ樹の根部が壊死していたり(その原因は踏圧、土壌の排水不良、疫病等さまざまである)、カミキリムシ等による地際部の食害があったりすると、やはり本病と見分けるのが難しい。その結果、グリーニング病に感染しているカンキツを別の理由による異常と誤診したり、逆に生理障害のカンキツをグリーニング病と誤診したりする可能性がある。前述のように本病の診断は目視だけでは不十分であり、懸念される樹体がある場合には、専門家や関係機関による精密な診断を依頼するべきと考える。

  • 図1.カンキツグリーニング病発症樹
    A. グリーニング病の病徴を呈する葉
    B. グリーニング病発症樹の果実
  • 図2.グリーニング病と誤診しやすい生理障害発症カンキツ樹
    A. 亜鉛欠乏
    B. 窒素欠乏(やや鉄欠乏も)

媒介虫ミカンキジラミとは

カンキツグリーニング病の病原細菌は、一般的な植物病原細菌と異なり植物の篩部に局在している。このため、植物の傷口や気孔等の自然開口部からは侵入できない上、激しい雨風によって発病が助長されるということもない。では、どのようにして本病がまん延していくのかというと、本病はミカンキジラミという昆虫によって媒介される(アフリカでは別種のミカントガリキジラミが媒介)。ミカンキジラミが寄主植物であるカンキツに取り付き篩管液を吸汁する際に、病原細菌の伝播や獲得が行われる。これまでに本誌では近縁の害虫としてチュウゴクナシキジラミ(2)とビワキジラミ(3)が紹介されているが、ミカンキジラミもその成虫は体長わずか3 mmであり、他のキジラミの仲間と同様に園地で虫体を見つけることは困難である。しかしミカンキジラミが発生している鹿児島県奄美群島や沖縄県では、カンキツが庭木で植えられていたり、生垣にゲッキツと呼ばれるミカン科植物が使われていたりしており、これらがミカンキジラミの主要な寄主であるため、こうした人家周辺の木をビーティング等で採虫調査することでミカンキジラミを見つけることができる。また、他のキジラミの例と同じくミカンキジラミの分泌する甘露やろう物質を見つけることで虫体を探すこともできる。図3はミカンキジラミがいるカンキツの様子であり、ミカンキジラミの増殖が著しい場合にはろう物質で枝や葉が覆われていることもある。また甘露やろう物質に加えて、葉上ですす病が目立つことも目視診断のポイントである。

  • 図3.ミカンキジラミのいるカンキツ樹
    A. ミカンキジラミが少ない時
    B. ミカンキジラミが多く、ろう物質が激しく付着している時

グリーニング病を防ぐには

残念なことに、グリーニング病を治療したり予防したりする薬剤は今のところない。海外には抗生剤による防除が実施されているところもあるが、十分な防除効果は挙げられていない。しかし、媒介虫であるミカンキジラミには有効な薬剤が多く登録されているので、媒介伝搬を防ぐためにミカンキジラミの防除を徹底することが、本病の拡大を防ぐ最も効果的な防除対策と言える。また、見慣れない昆虫を見つけた場合には、最寄の関係機関に連絡や相談をすることがミカンキジラミ(それ以外の侵入害虫も含めて)の侵入を食い止める最善の行動と考えられる。

さいごに

アメリカ合衆国ではオレンジの大産地であるフロリダに1990年代にミカンキジラミの侵入が確認され、すぐにグリーニング病が全域に広がった。また最近では西海岸のオレンジ産地であるカリフォルニアでもミカンキジラミの侵入が確認され、庭木レベルでグリーニング病が発見されだしているという。カンキツグリーニング病の恐ろしいところは、一度産地に侵入し広がってしまうと根絶が極端に困難になることである。日本では離島での限定的な発生ということもあり、島単位での根絶達成や産地の無病地域拡大といった成功を収めているものの、もし本州、九州、四国のカンキツ主産地にミカンキジラミやグリーニング病が侵入すると、日本のカンキツ産業は壊滅的になると懸念される。これを防ぐためにも、グリーニング病を対岸の火事としない意識づくりとカンキツ樹の診断が不可欠である。

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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)