ゴルフ場ベントグリーンの殺菌剤今昔物語

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植物医師
佐藤 政宏

ゴルフを趣味とされない方のために最初に解説しておく。グリーン(green)とは、ゴルフコースの重要な部分で、フェアウェイ(Fairway:ティーグラウンドからグリーンまでの間で芝生が短く刈り揃えられた区域)よりもきめ細かに整えられたシバで構成されており、パッティング グリーン(putting green)ともいう。グリーンの区域内にボールを入れるカップ(ホール)が設置されている。

2グリーンで保護殺菌剤全盛の時代

1980年代の中頃までゴルフ場のベントグリーン(以下BG)は通年使用が難しいと考えられていた。BGに使用されているベントグラスは、繊細で美しく上質の芝生をつくるが、手間がかかり「非常に繊細で弱い草種」と認識されていた。しかも地際から草丈4~5mmに低く刈込まれるため、病気にかかると瞬く間に広がりグリーンの商品価値を大きく損ねることが多かった。そこで、多くのゴルフ場では、もう一つ、ベントグラスより管理に手間がかからないコウライシバで造成されたグリーンを併設して交互利用する、いわゆる2グリーンの形態を採っていたのである(図1)。
その当時はシバの植物病に“耕種的防除”という概念は一般的ではなかったし、まして、“植物保護”という言葉もなかった。したがって、植物病が未発病であっても「予防」として、定期的に殺菌剤を散布する方法がとられていた。このあたりが後々“ゴルフ場は薬漬け”などと言われた所以であると考えられる。具体的には、TPNやキャプタン、チウラム等のスペクトラムの広い保護殺菌剤を基幹防除剤として定期的に散布をおこない、初期の病徴が見られたらチオファネートメチルやイプロジオンのような浸透移行性剤を使うという散布方法が行われていた。

  • 図1. 2グリーンのゴルフ場
    ベントグラスのグリーン(左、ベントグリーン)とコウライシバのグリーン(右)

農薬の進歩と現状

その後、バブル景気ともあいまって業界が活性化することにより、海外のゴルフ先進国からさまざまな管理技術や手法が導入され、BGの通年利用(1グリーン)が可能となった。そして、化学農薬も新しい薬剤が続々とシバに登録された。特に1990年代はDMI剤が花形の時代といっても過言ではない。また、抗菌スペクトラムの広いQoI剤が登場したときの業界の盛り上がりは、私がグリーンキーパーの時代だったので、今となっては懐かしい。
さて、様々な技術導入によりBGは通年利用可能となったが、管理者からみればメンテナンスの時間が激減してしまったことになる。効率化、省力化が求められ一度の施用で多種多様な病気を確実に予防できる薬剤が、続々と上市されている。例として、ジフェノコナゾール剤+アゾキシストロビン剤やピラクロストロビン剤+ボスカリド剤等多数の複合剤があり、化学農薬による防除手法は30数年前に比較して、格段の進歩を遂げた。これらの剤は、低薬量で優れた効果を発揮するため依存度が高くなるとともに、連用によって抵抗性を有する病原の出現や病原が交叉耐性を獲得するリスクが高まるため注意が必要である。したがって、TPNのような多作用点剤は過去のものではなく、いまだにローテーション散布の重要な位置を占めているのである。  
シバの植物病を効果的に防除するためには、植物病の発生生態に応じて効果的な薬剤を選択し、各ゴルフ場に対応した防除体系を構築することが重要である。

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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)