米ぬかを使ったカイガラムシの防除法 ~チャのクワシロカイガラムシを中心に~

埼玉県茶業研究所
小俣 良介

はじめに

チャを加害するカイガラムシ類には、ツノロウムシ、チャノマルカイガラムシ、ルビーロウムシ、ワタカイガラムシ数種などが知られているが、クワシロカイガラムシ(以下、クワシロ)は1994~1995年代に全国の茶産地で大発生し、地上部が枯死に至る重大な被害(図1)をもたらすため大問題となった(1)。クワシロの防除にはチャ株内の枝幹に寄生し、介殻で覆われていないふ化幼虫期(図2)にあたるおよそ4日間程度の期間中に薬剤を散布する必要があり、10a当たり1000Lという多量の薬液を必要とする。さらに、年に3~4回発生することから、防除における生産者の負担は非常に大きくなった。

  • 図1. クワシロカイガラムシの被害園と寄生の様子
    A. 枝一面にクワシロカイガラムシが寄生したチャ株
    B. クワシロカイガラムシの寄生により枯死したチャ株
    C. 円柱形の雄まゆと円形の雌成虫の介殻
    D. 介殻を外した雌成虫の虫体 実体顕微鏡像(×20倍)
  • 図2. クワシロカイガラムシの発育と防除のタイミング

薬剤による防除

そのような中、昆虫成長制御剤のピリプロキシフェンマイクロカプセル剤(商品名:プルートMC)が2007年に登録された。この薬剤は1~3月に1回散布することで越冬雌成虫の産卵抑制、ふ化幼虫の成育停止などの効果がある(2)とされている。これにより年1回の農閑期に1成分で防除可能となり、生産者の負担はかなり軽くなった面がある。しかし、本剤は蚕に対する長期毒性があり、基本的には半径10km圏内に桑園や養蚕施設がある地域では使用が規制される(3)など厳しい管理のもと薬剤が供給されている。埼玉県では2013年2月から、県とメーカーとの個別契約により本剤が使用できるようになった。しかし、茶園から近くの桑園までの距離が規制圏内以下にあるために利用できないケースはいまだに多い。

米ぬかによる防除の発見

筆者は生産者の情報をもとにクワシロを防除できることを確認し、地元の講習会・研究会誌、農文協の「現代農業」などを通じて主に生産者を対象に断片的に技術の紹介をしてきたが、学会誌等の論文として報告をしたことはなかった。しかし、現在も全国から「米ぬかのクワシロ防除」に関する問い合わせがあることから、本技術の実施方法や効果について改めて整理してここに紹介する。

埼玉県におけるクワシロの発生経緯と米ぬかの効果

1)発生経緯

1994~1995年代に関西以西で問題となっていたチャのクワシロは、埼玉県では長い間確認されることはなかった。しかし、1999年になって県内で1か所確認(4)されて以後、関係機関で協力して発生拡大防止と警戒を行っていたが2005年以降は県内各地でクワシロの被害発生が相次ぎ、県では特殊報を発令するに至った(5)。いずれの事例も他の発生県から購入した苗を発生源としていた点が共通であった。
当時、埼玉県の生産者には乗用型防除機の整備は進んでいなかったため、クワシロの防除は労力的に負担であり、チャ栽培の脅威となっていた。慣行の防除方法である動力噴霧器による手散布をより効率的に改変して10a当たり1000Lをチャ株内に散布する「たたき散布法」(6)などを考案して情報提供するものの、散布には時間がかかり、農薬も多量に使用することから、なるべく環境への負荷の少ない方法でクワシロ対策ができないものか模索していた。

2)米ぬか利用のはじまり

1999年に埼玉県で初発生となった茶園の園主が雑誌「現代農業」で米ぬかを防除に利用した記事(7)を参考に、クワシロ寄生枝に米ぬかを付着させたところ、クワシロの防除効果が認められたとの情報提供を受けた。
そこで、2005年に県内発生2件目の発生茶園の園主に米ぬかについて情報共有したところ、園主はすぐさま発生茶園にスポット的に米ぬか処理を実施した。幹枝が白くなり、クワシロが寄生している株に、まずDMTP乳剤(DMTP40.0%。現在は製造中止)を噴霧して幹枝を湿らせた後に米ぬかを付着させたとのことで、結果は前述の生産者からの情報の通りクワシロの効果が認められた。木肌が黒く変化してクワシロが死滅しており、これが公的研究機関としての米ぬかによるクワシロ防除事例の初確認となった(図3)(8)。

  • 図3. 米ぬか処理とクワシロカイガラムシの防除
    A. チャ株に米ぬかを処理した直後の様子 
    B. 米ぬか処理後の幹の様子 (文献8から転載)
      DMTP乳剤散布後に米ぬかを処理した株
      米ぬかは黒変しクワシロカイガラムシが死滅している

3)米ぬか処理の防除効果

米ぬかを付着させたクワシロの寄生枝ではクワシロが消失し、良好な経過をたどるのは、まったくの偶然ではないと推察された。なぜなら、もともとクワシロの天敵には微生物として、チャ灰色こうやく病菌やチャ褐色こうやく病菌、カイガラムシ猩紅病菌(しょうこうびょうきん)など、クワシロの介殻を利用して繁殖し、クワシロを抑制するカビ類の存在が知られている(図4)。当時の埼玉県はクワシロの初発時期であり、クワシロに寄生するこうやく病菌がどの茶園にも生息しているという可能性は低かったが、米ぬかをクワシロの寄生部位に付着させることで、チャ株内に自生するカビ類が米ぬかを培地として増殖し、なんらかの抑制作用をもたらしているものと考えられた。
また、クワシロは卵からふ化したのち4日程度は介殻がない状態での歩行が可能で、定着する場所を求めて移動する。この時期が化学農薬による防除適期となる(図2)が、幼虫の移動時期に米ぬかを移動部位に付着させることにより歩行幼虫の移動・定着を阻害することも考えられる。
さらに、クワシロの防除法の一つにマシン油乳剤を散布し気門封鎖により殺虫効果をねらう防除法があるように、幼虫、成虫を問わずクワシロの虫体に米ぬかが付着することにより米ぬかに含まれる豊富な油分が気門封鎖の作用をもたらすことも十分に考えられる。

  • 図4. クワシロカイガラムシ多発茶園に発生したこうやく病
    A. クワシロカイガラムシ寄生枝を取り巻くように発生したチャ灰色こうやく病 
    B. チャ褐色こうやく病の拡大像(実体顕微鏡×20)
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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)