神頭 武嗣
はじめに
最近、ピーマン(主に露地栽培)に、果実表面が円~楕円形に凹み、灰褐色で、後に同心円状になるカビに覆われる症状が多発し問題となっている。多湿時には、陥没部分にオレンジ色の胞子のかたまりができる。これはピーマン炭疽病で、カビ(糸状菌、主にColletotrichum scovillei)によるものである。このような激しい症状がまたたく間にまん延し、収穫皆無となる圃場(ほじょう)も出ている。炭疽病の中でも特に病原性が強く、注意が必要である。
症状
ピーマンの生育初期〜中期(梅雨期または9月の秋雨期)に果実の症状が現れはじめる。凹みは最初小さい(図1)。その後、直径5~30ミリに拡大し、灰褐色から黒色になる。症状が激しくなると病斑部分が拡大し、果実の大半を侵す(図2a)。多湿時には陥没部分にオレンジ色の胞子のかたまり(分生子塊)ができる(図2b)。まれに葉や果梗にも同心円状の斑点ができる。
診断
果実表面の凹みは、日焼け果(図3a)や尻腐果(しりぐされか)(図3b)、灰色かび病(図3c)と混同しやすい。日焼け果も尻腐果も、高温(主に30℃以上)・乾燥時に発生しやすい(1)。一方、炭疽病は25℃~30℃で、果実が10時間以上濡れた状態で発生しやすい(2)。透明のビニール袋に症状の出ている果実を入れ、水に濡らしたティッシュを丸めて密封し、数日~1週間室温におくことで簡易診断ができる。果実陥没部分にオレンジ色の胞子のかたまりができれば炭疽病である(図2b)。
防除法
耕種的対策としては、露地栽培からハウスなどの雨よけ栽培に切り替えるとよい(3)。炭疽病菌の胞子は重く、風では飛ばず、雨や霧の水滴の中に入って飛び散るため、雨よけ栽培をすれば、胞子の拡散や飛び込みを抑えられる。また、果実が長時間濡れていると発病しやすくなるので、株間や畝間を十分とり、枝の配置に注意し、風通しのよい枝管理を心がける。
また、圃場衛生にも気を配ることが大切である。具体的には、罹病果実や葉、枝などは、いったんビニール袋などに入れて圃場外に持ち出して保管し、次のように焼却やすき込み処分等を行う。
(1)焼却処分
原則として、残さはピーマンを作付けした圃場内で焼却する。事前に消防へ届け出て、野焼きをする際に地域に必要な対応(有線放送・回覧等で周知など)を行った上で、残さを十分乾燥させて、周辺への影響(煙・延焼等)を考慮し、風のない日に焼却する。
(2)すき込み処分
当該作でピーマン栽培を行った圃場(次年度は作らない)で、水源からできるだけ離れた圃場内で行う。
① 残さと石灰窒素(10a のピーマン残さに対し石灰窒素※40 kg程度)を混和しながら圃場へ投入する。
② 投入後は、早めにすき込む。
③ すき込んだトラクター等は、次の圃場に入るまでに洗浄する。
※石灰窒素を施用した場合は窒素成分の影響があるので、次年度水稲予定の場合は、元肥を無くすか減らすこと
発病が確認されたら、罹病果の除去と収穫に使うハサミ、収穫用コンテナと出荷用コンテナを分ける必要がある。コンテナを分けないまま出荷用コンテナに罹病果が混入すると、集出荷場で菌が拡散し、未発病圃場に持ち込まれた汚染コンテナから感染が拡大する。集出荷場でのコンテナの温湯消毒などの対策も重要である(1)。
加えて本病は、ピーマン以外にトウガラシ、トマトのほか、エンドウ等マメ科作物やイチゴにも発生する。したがって、隣接する圃場で栽培している場合などは注意が必要である。
防除薬剤としては、「ピーマン炭疽病」に対してTPN水和剤、フルジオキソニル水和剤、アゾキシストロビン・TPN水和剤、ピラクロストロビン・ボスカリド水和剤、ベンチオピラド・TPN水和剤等12件が登録されている(4)。これら薬剤のうち、C. scovillei 等の菌はベノミルなどのベンゾイミダゾール系薬剤が効きにくいので、薬剤の選択には注意が必要である。ここに挙げた薬剤は、いずれも効果があるが、発病後は効果が落ちるため、予防散布やごく発生初期からの散布を心がける。薬剤が判断しづらい場合や散布のタイミングについては、植物医師®に尋ねると良い。
引用文献
- JAたじまピーマン協議会炭疽病対策委員会 (2013) 「ピーマン炭疽病対策マニュアル」
- 神頭武嗣・内橋嘉一・齋藤隆満ら (2016) 「ピーマン炭疽病(Colletotrichum scovillei)の感染リスク予測システムの開発」 関西病虫研報 58: 95-97.
- 兵庫県立農林水産技術総合センター成果パネル (2016)「ピーマン炭疽病防除システムの開発」
- 農薬登録情報提供システム(2023年4月12日閲覧)