シンビジウムの難儀な土壌病害:「腐敗病」と「乾腐病」の効果的な防ぎ方

東京大学 大学院農学生命科学研究科
市川 和規

はじめに

ラン科植物の一種シンビジウムは寒さに強いうえ、花持ちもよく、丈夫で育てやすい。鉢栽培のため一般に土壌病害は起こりにくいので管理しやすい観賞植物であるが、カビによる腐敗病(糸状菌:Fusarium oxysporum)と乾腐病(糸状菌:Fusarium solani)は、これまで産地において幾度となく大きな被害をもたらしている。その原因は、栽培管理にあり、これを適切に行えば発病を抑えることができる。本稿では、その効果的な防ぎ方について紹介する。

腐敗病

根、バルブ、葉に症状が発生する。はじめ新葉がしおれ、黄化~褐色に変色し、やがてバルブから簡単に抜けるようになる(1)(図1A)。このとき、根は褐色~黒褐色に腐敗しており、バルブ内部も黒褐色に腐敗している(1)(図1B)。やがて株全体がしおれて枯れる。発病は開花株でも見られるが、病気の進展が速いので、開花前の苗で発生が多い(2)。

  • 図1. シンビジウム腐敗病の病徴
    A. 葉は褐変し、落葉している
    B. 根は褐変腐敗し、バルブ内部は基底部より黒褐色に腐敗している

乾腐病

症状が発生するところは腐敗病と同じである。葉はバルブに接する基部が初めに黄化褐変し、やがて枯れる(3,4)(図2A)。根は腐敗し、バルブは表面が黒褐色になり基底部から乾腐する(3,4)(図2B,C)。病気の進展が遅いので、あらたに出てきた葉の基部や根が侵されるため草丈が伸びず、バルブも大きくならない。開花株で発生すると、蕾の基部が褐色となり、しおれ、紅色に変色後、落下する。花持ちが悪く早期に落下する。(3,4)(図2D)。

  • 図2. シンビジウム乾腐病の病徴
    A. 葉は基部から黄化褐変している
    B. 根は褐変腐敗している
    C. バルブは基底部から黒褐色に乾腐している
    D. 蕾は花茎基部が褐色となり、しおれ、紅色に変色後に落下し、花は早期に落下する

効果的な防ぎ方

両病害ともにフザリウム菌により起こるので、同じ対策で防ぐことができる。ただ、これらの病害に対する農薬は登録されていない。したがって、以下に述べる耕種的な防除が主体となる。

1.病原菌を栽培ハウス内に入れない

①病原菌は鉢、用土、農業資材等の栽培に用いる資材を介して栽培ハウスに入ってくる。そこで、鉢や用土などは、常に新しいものを使用する。育苗トレーなど使い回しする農業資材は、次亜塩素酸カルシウム(5)等で消毒したものを用いる。②また、他の植物からの感染を防ぐため栽培ハウス内でラン科植物等の栽培は行わない。両病害の病原菌がどのような植物に感染するかについては分かっていない。しかし、両病原菌と同じ種類の菌はいろいろな植物に病気を起こすことが知られている。例えば、ラン科植物では、デンドロビウム類腐敗病やバニラ立枯病は腐敗病菌と、またファレノプシス株枯病やドリテノプシス株枯病は乾腐病と同じ種類の菌によって起こる。そのため、これらラン科植物は両病害の伝染源になる恐れがあることから、ハウス内での栽培は行わないこととする。

2.ハウス内で蔓延させない

①葉の黄化や褐変等が見られる発病株は、両病害とともに褐色腐敗病など他の病害の可能性もあることから直ちにハウス外に持ち出し、土中に埋没するか焼却処分等する。②鉢増し(鉢の移し替え)作業では、罹病根や病原菌に汚染された用土が古い鉢から新たな鉢へ混入しないように気をつける。シンビジウムの栽培はメリクロン苗から出荷まで3年かかるが、この間に鉢増し作業が3回ある。この時には根を観察できるので、防除を徹底する良い機会である。腐敗根のある株は廃棄する。腐敗せず褐変している根がある株は生理的なもと区別が付かないので鉢増しするが、発病の可能性もあるので留意しながら栽培する。一方、腐敗根がある株では用土が作業台に落ちやすいので、これが新たな用土と混じらないように注意する。この落下用土には病原菌が潜んでおり、新たな伝染源となる。③有機質肥料の油粕の使用は避け、緩効性化成肥料を施用する。油粕はシンビジウムの品質が良くなるために使用されることが多いが、油粕は腐敗病や乾腐病の病原菌の増殖につながるので使用しない(図3A,B)。具体的には、緩効性化学肥料(N:P:K:Mg=13:14:8:2)を春と秋に2回施用する。これらの病害が問題となるハウスでは、多くの場合②と③が原因となっている可能性が高い。

  • 図3. シンビジウム腐敗病株の発生と油粕
    A. 油粕で栽培されたシンビジウムにおける腐敗病の発生
    B. 油粕で増殖するフザリウム菌

3.次作に病原菌を残さない

育苗トレーなどの使用済みの農業資材は病原菌が付着しているので、次亜塩素酸カルシウム(5)等で消毒する。

以上、ここであげた防除対策は、いずれも普段の栽培管理作業の中で実施できるので、ぜひ防除の意識を持って実行してほしい。

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ISSN 2758-5212 (online)