土壌病害の効果的な防除法~栽培管理や微生物を利用した防除~

東京大学 大学院農学生命科学研究科 市川 和規
東京大学 大学院農学生命科学研究科 渡邊  健
株式会社東日本肥料 白石 俊昌

はじめに

近年、様々な政策において化学農薬使用量の低減がうたわれ、総合的病害虫・雑草管理(IPM)の普及、推進が重要とされる。本稿では、IPMのツールでもある栽培管理(耕種的防除)や微生物の利用(生物防除)による土壌病害の予防・防除について考えてみたい。

1.栽培管理により防除する

輪作の効果

輪作は土壌病害を防除する上での基本的技術である。土壌病害を引き起こす病原菌の多くは、厚膜をもった耐久性のある胞子(図1A,B)や硬い菌糸でできた塊(菌核)(図1C,D)をつくるため、土壌中で数年間は生存できる。したがって、連作すると菌密度が高くなり多発するようになる。このため、病原菌にかからない異なる種類の作物を用意し、毎年替えて栽培し、病原菌の密度を低下させ、発病を防ぐ方法が「輪作」である。例えば、コムギ立枯病ではコムギ以外の作物を3年間栽培し、その後コムギを栽培すれば、発病が抑えられ収量低下を防ぐことができる(1)。カボチャ立枯病やジャガイモそうか病の発病を抑制するには、トウモロコシやヘアリーベッチ(図1E)を導入した輪作が効果的である(2,3)。また、ハクサイ根こぶ病は葉ダイコンと輪作することで被害を軽減できる(図1F,G)。水田で水稲と畑作物を交互に栽培する田畑輪換では、トマト半身萎凋病やイチゴ萎凋病などの被害を軽減できる。イチゴ半身萎凋病は水稲を3作(3年)以上栽培した後にイチゴを1作(1年)栽培する輪作体系により高い防除効果が得られる(4)。

アブラナ科植物のすき込み

アブラナ科植物を輪作作物として栽培したのちに土壌へすき込む(図2A)と、後作の土壌病害虫や雑草の発生が軽減される。これは、アブラナ科植物に含まれるカラシ油成分が分解して生じる物質が土壌に生息する有害生物の生息密度や活性を下げることによるものと考えられている。そこで、緑肥作物としてカラシ油成分を多く含むカラシナ品種が育成されており、これをすき込むとホウレンソウ萎凋病、テンサイ根腐病、ジャガイモ黒あざ病、トマト青枯病等の発病が抑制される(5)。これらの手法は、土壌還元消毒や太陽熱消毒と併用することにより、防除効果をさらに高めることができる。土壌還元消毒で用いるフスマなどの有機物の替わりにアブラナ科植物をすき込み、土壌消毒効果とすき込み効果の両立を狙った方法も行われている。すき込み後は灌水しポリフィルム等で土壌表面を密封し、土壌還元効果と揮発性殺菌物質の拡散抑制を図る。また、ブロッコリーの収穫後に、その残渣を有機物としてすき込むことでも同様の効果がある(5)。以上の方法は、持続的農業を推進し、環境保全や作業者の安全性を確保するうえでもお勧めである。

ネギ類の混植

キュウリやユウガオ、ホウレンソウの栽培においてネギ類を混植すると、作物の維管束を侵すウリ類つる割病やホウレンソウ萎凋病の病原菌が、根から侵入するのを抑制する。これは、ネギの根面に好んで生息するバクテリア(細菌)と根から分泌されるアリシン等の抗菌作用による。ホウレンソウの雨よけハウス栽培では、土壌燻蒸消毒をしてもハウス側面に消毒むらが生じ、生き残った病原菌により萎凋病が発生しやすくなる。そこで、土壌燻蒸消毒後、ハウス側面の畝肩にネギやニラを10 cm 間隔で植えることにより、萎凋病の発生が抑制される (6)。ウリ類つる割病でも効果がある。

土壌pHの改善による防除

土壌pHは土壌病害の発病に影響する。ジャガイモそうか病は土壌pH4以下の酸性土壌で発病が抑制されるが(7)、アブラナ科根こぶ病やキュウリのホモプシス根腐病では酸性土壌で激発し土壌pHが7.5付近のアルカリ性土壌で発病が見られなくなる(8,9)。そこで、アブラナ科根こぶ病やキュウリのホモプシス根腐病の発病圃場では、植え付け前に石灰資材を用いて土壌pHを7.5付近にして発病を抑制する(8)。なお、アルカリ性の土壌では鉄、マンガン、亜鉛などの微量要素が不溶化し作物に吸収されにくくなるため、欠乏症状が生じる恐れがある。最近、キュウリのホモプシス根腐病では、土壌がアルカリ性になっても微量要素欠乏が起きない転炉スラグを用いた土壌pHの改善法が開発された(9)。

耐病性品種と台木の利用

発病圃場では耐病性品種や抵抗性台木を利用して土壌病害を軽減できる(図2B,C)。耐病性品種がないために土壌病害が問題となるトマト、ナス、キュウリ、スイカ、メロンなどでは、耐病性をもちつつ栽培品種の優良品質(食味や収量など)に悪影響を与えない台木への接木苗を用いる方法が行われる。ナス、トマトでは青枯病、キュウリ、スイカ、メロンではつる割病の発生を回避するために台木選抜が行われている(表1)。なお、キュウリでは果実表面に生じる白い粉「ブルーム」の発生抑制(9)、スイカや露地メロンでは低温でも果実が肥大する特性も台木選抜の際の重要なポイントである。

罹病株の除去と栽培後の残渣処理

栽培中に、しおれた株や枯死株が見られた場合には土壌病害の可能性がある。異常株は見つけしだい周囲の土ごと掘り上げ、その土壌を周囲に散乱させぬようにビニール袋等に入れて圃場外に持ち出し放置することなく(放置すると伝染源となる)、適切に処理し、隣接株への伝染を防ぐ。また、栽培終了後、作業の手間を省いて、罹病株を圃場に放置したり(図2D)、土壌中にすき込むことは、次作の主要な伝染源となるため、必ず圃場外で処分し、圃場の衛生管理に務める。

  • 表1. 抵抗性台木品種の利用により防除可能な土壌病害
  • 図1. 栽培管理による防除法(輪作)
    A. イチゴ乾腐病の厚膜胞⼦(⽣物顕微鏡写真)
    B. タラノキ⽴枯疫病の卵胞⼦(⽣物顕微鏡写真)
    C.トマトの地際部茎に形成された⽩絹病の菌核(⼤きさ:1~2mm)
    D.ウドの組織内に形成された萎凋病の微⼩菌核(⼤きさ:0.05~0.1mm)
    E.間作作物として導⼊するヘアリーベッチ
    F.ハクサイ連作による根こぶ病の被害(休作ーハクサイー休作ーハクサイ)
    G.⼩瀬菜ダイコン(葉ダイコン)の輪作による根こぶ病の発病
    抑制(⼩瀬菜ーハクサイー⼩瀬菜ーハクサイ)
  • 図2. 栽培管理による防除法
    A.葉ダイコンの⼟壌へのすき込み
    B.キャベツ⿊腐病に対する品種抵抗性の違い感受性品種:YRあおば耐病性品種:麗峰⼀号
    C.ナス⻘枯病に対する台⽊品種の耐病性健全株(⾚印) (台⽊:トレロ、穂⽊:千両2号)萎凋株 (⾃根:千両2号)
    D.キャベツ根こぶ病等による被害残渣の圃場への放置Bは池⽥健太郎⽒提供

2.微生物の利用により防除する

微生物を病害虫防除の目的で農薬として開発・登録されたものが微生物農薬として販売されている。

微生物農薬による防除

2021年末の時点で微生物農薬は26種類64銘柄が登録されている(10)。現在、土壌病害に効果のある微生物農薬として登録されているものは、7種類8銘柄ある。そのうち3種類3銘柄は製造販売中だが、3種類4銘柄は製造中止で1銘柄のみ在庫販売され、1種類1銘柄が上市検討中である。カビによる野菜類の菌核病やアスパラガス紫紋羽病、バクテリアによる野菜類の軟腐病(11)、レタス腐敗病などに登録がある(表2、図3)。微生物農薬よりも化学農薬の方が扱いやすいが、微生物農薬は薬剤耐性菌を発生させないのでぜひ活用すべきである。ただし、萎凋病や根腐病など主要な土壌病害を含む多くの土壌病害で微生物農薬の開発が遅れている。2016年以降に新たな微生物農薬は登録されていないが、すでに登録されているラクトバチルス プランタラム水和剤が上市に向けて検討されている(表2)。微生物農薬は土壌病害を効果的に防除するうえで重要であり、今後の農薬登録の促進が望まれる。

  • 表2. 土壌病害に農薬登録がある微生物農薬(2023年3月23日現在)
  • 図3. ⼟壌病害に防除効果のある市販の微⽣物農薬

引用文献

  1. 宮島邦之(1986)「コムギ立枯病の発生生態と防除」植物防疫40(4):159-162.
  2. 渡邊 健ら(2004)「輪作およびへアリーベッチのライブマルチを利用したカボチャ立枯病の耕種的防除」関東病虫研報51:49-53.
  3. 青木一美・渡邊 健(2011)「ジャガイモそうか病の耕種的防除」関東病虫研報55:23-24.
  4. 海老原克介ら(2010)「育苗圃の田畑輪換によるイチゴ萎凋病の防除」植物防疫64(10):665-669.
  5. 竹原利明(2016)「バイオフューミゲーションに関する近年の研究と技術開発の動向」植物防疫70(8):530-534.
  6. 五十嵐千佳ら(2017)「ネギ類の混植によるホウレンソウ萎凋病の抑制」日植病報83:87-
  7. 鹿児島県ホームページ「ジャガイモそうか病対策のための土壌酸度管理における土壌pH(KCl)指標」(2023年3月30日閲覧)
  8. 池上八郎(2011)「アブラナ科野菜根こぶ病とこの防除剤の石灰窒素」石灰窒素だより146号(2023年3月30日閲覧)
  9. 岩舘康哉(2023)「キュウリのホモプシス根腐病、その最善の対策は?」i PLANT 1 (1)(2023年3月30日閲覧)
  10. 古濵孝久(2022)「生物農薬の登録状況について」植物防疫所病害虫情報 第126号(2023年3月30日閲覧)
  11. 若山健二(2023)「収穫後も悩まされる軟腐病と微生物農薬」i PLANT 1 (3)(2023年4月15日閲覧)
  12. 石原バイオサイエンス株式会社ホームページ(2023年3月28日閲覧)
  13. クミアイ化学ホームページ(2023年3月28日閲覧)
  14. 株式会社ニッソーグリーンホームページ(2023年3月28日閲覧)
  15. 農薬登録情報提供システム(2023年3月28日閲覧)
  16. 農薬登録情報提供システム(2023年3月28日閲覧)
  17. 農薬登録情報提供システム(2023年3月28日閲覧)
  18. 農薬登録情報提供システム(2023年3月28日閲覧)
  19. 農薬登録情報提供システム(2023年3月28日閲覧)
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ISSN 2758-5212 (online)