最近話題のリンゴ病害「黄腐(きぐされ)病」

秋田県鹿角地域振興局農林部
佐藤 裕

はじめに

秋田県南部のリンゴ栽培地で、2011年の収穫期にそれまでの病害や生理障害とは異なる、小形の斑点が果実表面にできる障害が広範囲で発生した。これ以降も多発し、今では秋田県全域で発生している。この症状はカビ(糸状菌:Phlyctema vagabunda 、フリクテマ バガブンダ)による「黄腐病」(きぐされびょう)である。もともと80年ほど前からリンゴの貯蔵中に発生する貯蔵病害として知られていたものである。使用できる農薬がないため、今後さらに被害が広がる恐れがある。

症状

10月頃から「ふじ」、「秋田紅あかり」、「秋田19号」、「ぐんま名月」などの主に中・晩生品種において、果点(果実表面の点々模様)や毛耳痕(もうじこん)に数㎜の褐色~黒褐色の円形~不定形斑点(以下、小黒斑)が現れる(図A,B,C)(1)。この小黒斑は、収穫後に冷蔵しても発生する。この小黒斑が拡大し、腐敗病斑へと転じることはまれである。一方、この病原菌が果実表面に生じた傷口から侵入した場合、収穫前~貯蔵中に大型の腐敗病斑を生じることがある(図D)。
被害は主に小黒斑の発生であり、果実の成熟が進むと発生は増加する。未熟果では発生しても軽微である。発生品種には偏りがあり、特に「ふじ」は生じやすい(図A)。また、「秋田19号」、「ぐんま名月」など黄色品種の場合には、小黒斑の周辺が赤くなるハロー症状(図B)になる(2)。一方、葉や枝には症状は認められない。

毛耳痕:果実表面にある皮目の一種で、果点と比較して小さく数倍ある。果皮の色と同じ色調で、果実表面を凝視すると識別できる。

  • 図 リンゴ黄腐病の症状
    A. 「ふじ」に発生した小黒斑
    B. 「秋田19号」に生じた小斑点と赤色ハロー
    C-1. 果点に生じた小黒斑
    C-2. 毛耳痕に生じた小黒斑
    D. 収穫前の「ふじ」に生じた腐敗病斑(黄色矢印)と小黒斑
    E. 冷蔵中に「ふじ」に生じた腐敗病斑
    F. 腐敗病斑上に形成された分生子塊

診断

1)小黒斑

10月以降に毛耳痕で主に発生し、病斑表面は平坦かやや凹む(図C)。病斑直下の果肉はわずかに褐変し、スポンジ状になる(3)。他の果実病斑と似ているので、収穫後は判別が困難である。したがって、黄腐病は病斑の発生時期や症状から診断する。例えば、炭そ病は6月から、輪紋病は9月から発生する。斑点落葉病は「王林」に多いが、本病は「王林」にはほとんど出ない。褐斑病はツルもと~赤道部に出やすい。黒点病は果頂部周辺に多く発生し、黒星病はかいよう症状になる。黄腐病の場合は葉に症状が出ないため、斑点落葉病、褐斑病、黒星病と区別する際に参考になる。

2)腐敗病斑

この病原菌は小黒斑の他に、大型の腐敗病斑を作る。中央部が凹み、黄色~黄褐色、外側に向かい徐々に暗褐色を呈するようになる(図D,E)。この黄色を呈している腐敗症状が病名の由来である。腐敗部分はスポンジ状~軟質であり、病斑上に淡黄色のカビの分生子の塊(分生子塊)が形成されることがある(図F)(4)。腐敗病斑は多くの場合、冷蔵庫内で発生する(5)。腐敗部分から周囲の果実に広がることはない。まれに、適熟果が樹上で腐敗病斑を生じることもある(6)。傷口から感染した場合は、小黒斑を形成せず、腐敗病斑となる(5)。「紅玉」や「スターキング・デリシャス」で比較的発生が多い(4)。また、台風の後に樹上の果実において腐敗病斑が多発したことがあり、これは風によって生じた傷口から病原菌が侵入したためと考えられている。

防除対策

現在のところ、黄腐病に使用できる農薬(殺菌剤)は無い(2023年1月現在)。室内実験では、リンゴで使用されている殺菌剤の本病原菌に対する殺菌効果は、グアニジン系薬剤のイミノクタジン酢酸塩液剤、イミノクタジンアルベシル酸塩水和剤が非常に高く、これら以外では低い。また、9月にこれらを散布することによって小黒斑の発生量が軽減できる(3)。本病の農薬登録に向け、秋田県がこの2剤による防除試験を実施しているが、申請に必要な例数には達していない(2023年)。

引用文献

  1. 佐藤裕ら (2021) 「Phlyctema vagabundaによるリンゴ果実の小黒斑症状ならびに黄腐病の発生 (病原追加)」 日本植物病理学会報 87:133–145.
  2. 佐藤裕ら (2019) 「「秋田19号」など黄色系リンゴ品種の果面に生じる赤色斑から分離されたPhlyctema sp.について」 北日本病害虫研究会報 70:204.(講要)
  3. 佐藤裕 (2017) 「秋田県南部のリンゴ収穫果に多発した小黒斑について」 植物防疫 71:772–776.
  4. 田中弥平 (1981) 「原色リンゴ病害図説(病害編)」 青森県りんご協会 p. 56.
  5. 岸國平 (編) (1998) 「日本植物病害大辞典」 全国農村教育協会 p. 831.
  6. 佐藤裕ら (2019) 「Phlyctema sp. によるリンゴ黄腐病の樹上発病について」 日本植物病理学会報 85:43.(講要)
このページの先頭へ戻る
iPlant|ISSN 2758-5212 (online)