高品質のイチゴは炭疽病、萎黄病に弱い、その対策は?

一般社団法人 奈良県植物防疫協会
岡山 健夫

はじめに

私が初めてハウス栽培のイチゴを食べたのは、石垣イチゴの堀田ワンダーという品種。入り口で練乳を渡され、酸っぱいイチゴにつけて美味しく頬張った記憶がある。その後、イチゴの品質は飛躍的に向上し、いまや甘くて大きく香り豊かなイチゴが市場にあふれている。しかし、これら高品質のイチゴは、実は植物病に弱いのが欠点である。その理由は、育種の過程で、耐病性よりも大きさや味の良さを目的に選抜し続けたために、耐病性遺伝子を結構捨ててしまっているのである。本稿では、そのような高品質イチゴの産地で多発し、被害の大きな炭疽病と萎黄病に焦点をしぼって解説してみたい。

1)イチゴ炭疽病

症状
育苗中の苗では葉や葉柄、ランナー、クラウンが発病する(1)。ランナーや葉柄では浅くへこんだ黒い病斑を生じ、ランナーの先端は枯れる。高温多湿になると、葉に数ミリの小斑点が生じ、やがて黒褐色の大きな病斑になって枯れあがり、株全体に広がる。定植後の株では若い葉がしおれやがて枯れる。このクラウンを切ると、表皮側から内部に向かって赤褐色に変色している。病原菌はカビ(糸状菌)のColletotrichum fructicola である(2)。

伝染経路
病原菌は葉や葉柄、クラウンに潜んで越冬し、翌春に発病する。高温多湿状態が続くと多発する。感染は症状が見えない潜在感染株や前作に感染・枯死したイチゴの残渣を含む土壌などから広がる(3)。激発すると葉の病斑上に鮭肉色の粘質物(胞子の塊)がつくられ、この胞子が雨滴にまじり、周囲に飛散して感染を広げる(3)。秋が深まると発病は収まるが、菌は植物体に潜んで生存している。また病原菌は植物やその残渣がなくとも周囲の栄養分で生き続ける(腐生性がある)ため、枯れた雑草でも増殖して伝染源となる(2)。

防除対策
育苗用の無発病圃場で無病苗を栽培し、これを健全な親株として用いる。親株を購入する前には、入手元の苗育成状況を知ることが大切である。PCR法で潜在感染株からも菌を検出できるので、種苗の品質保証に利用できる(4)。健全な親株が入手困難な場合は、親株の発病前に伸びてきた子苗(第1子苗)を親株に使い、元の親株を廃棄すれば苗を通じた伝染を防げる。また、育苗期間中の感染拡大を回避するには、ランナー伸長期から育苗終了時まで雨よけ育苗や底面給水などにより地上部の茎葉に水滴がかからないようにするとよい(5)。毎年発生する圃場では抵抗性品種「かおり野」を用いるとよいが、灰色かび病の発生に注意する。農薬による防除ではイミノクタジンアルベシル酸塩水和剤やプロピネブ水和剤などの薬剤が高い予防効果を示すが、露地育苗や頭上潅水すると本病発生後の蔓延が早いので、頻繁に散布する必要がある。治療効果のある薬剤ジエトフェンカルブ・チオファネートメチル水和剤などは、耐性菌の発生リスクが高いので連用を避ける。汚染圃場では、ダゾメット粉粒剤などによる土壌消毒や、夏期の太陽熱利用による施設内の土壌消毒(6)を行い、次作への感染拡大を防ぐようにする。

  • 図1. イチゴ炭疽病
    A. 親株の葉柄が黒変して折れ曲がる
    B. ランナーに形成した黒色病斑
    C. 育苗圃で苗が坪状に枯死する
    D. 高温多湿時に降雨で飛散した分生子による病斑
    E. ポット苗の発病
    F. 本圃での発病枯死株
    G. クラウン内部の褐変

2)イチゴ萎黄病

症状
苗が感染すると新葉が黄緑色に変わり、小葉の一部が小さくなって奇形となる(1)。苗は小さいままで葉はしおれやがて枯れる。親株が感染するとランナーの発生は少なくなり、新葉が奇形になる。夏期の高温時には株が急激にしおれて枯死する急性症状が発生する。発病株はクラウン、葉柄、ランナーの維管束が褐色に変わり(切って断面を見ると分かる)、根が黒褐色になって腐敗する。発病が軽い株では低温時に症状が消えることがある。病原菌はカビ(糸状菌)のFusarium oxysporum f.sp. fragariae である。

伝染経路
この病原菌はイチゴのみを侵す。気温が25℃以上になると発病するため、盛夏期にはしおれて枯死する株が多発する。土壌伝染と苗伝染によって広がる。土壌伝染は病気になった株が腐敗するとその腐敗組織の中に耐久性の胞子(厚膜胞子)がつくられ、これにより起こる。厚膜胞子は土壌中で4~5年以上生存し、イチゴが植え付けられると、根から侵入して発病する。苗伝染は病気になった親株から採取した子株を使用することにより発生する。病原菌が親株のランナーの導管を移動して子株に感染して起こる。このような感染株が子株として定植されると、本圃で枯死するため組織内に大量の厚膜胞子がつくられ、これが次作の土壌伝染源となる。

防除対策
育苗用の無発病圃場で無病苗を栽培し、これを健全な親株として使用する。感染株や汚染土壌はPCRで菌を検出できるので、苗生産で親株を増殖する施設ではPCR検査を実施することが望ましい(4,7,8)。本圃に定植する前には苗の選別を行い、採苗時や定植時には萎黄病の症状の無い株を選んで植え付ける。採苗の際には特に親株の発病に注意し、症状が認められる場合には発病株とその周囲の株から苗の採取はしない。育苗用土は無病培土を用い、ベンチ栽培やポット育苗などの隔離育苗により健全苗を増殖する。多くの高品質品種は本病に弱いが、「紅ほっぺ」や「章姫」は発病するものの比較的強い。発生が見られた汚染圃場では、クロルピクリンくん蒸剤などによる土壌消毒や夏期の太陽熱利用による施設内の土壌消毒を行ない(6)、次作への感染拡大を防ぐようにする。

  • 図2. イチゴ萎黄病
    A. 小葉が小型化し、舟形になってねじれる
    B. 苗伝染により連続して発病する
    C. 高温時には葉が激しく萎凋し、枯死する
    D. クラウンは導管部が褐変する
    E. 本圃定植後の発病枯死株
このページの先頭へ戻る
iPlant|ISSN 2758-5212 (online)