米ぬかを使ったカイガラムシの防除法 ~防除の課題と新たな展開~

埼玉県茶業研究所
小俣 良介

はじめに

これまで米ぬかを使ったカイガラムシの防除法発見の経過、その評価方法などを取り上げてきたが、本稿ではこの防除法についての今後の課題と大型防除機の開発による新たな防除技術の展開などを紹介したい。

米ぬかによるカイガラムシ防除

前号で述べたように、米ぬかを10a当たり40kg相当量、チャ株内の幹枝に付着させることによりクワシロカイガラムシ(以下、クワシロ)やツノロウムシに対する防除効果が確認された(1)。また、両種カイガラムシを対象に登録のあったDMTP乳剤を散布したのち、米ぬかを付着させた場合はさらに効果が高まった(1)。有機リン剤であるDMTP乳剤は現在、すでに登録失効となったが、他の登録薬剤を散布後に処理することでも同様の効果が期待される。しかし、クワシロに対して最も高い防除効果が認められているピリプロキシフェンマイクロカプセル剤については十分な防除効果が期待できるため、散布後の米ぬか処理は不要である。なお、他の薬剤と米ぬかとの併用については十分な知見がないので、植物医師®や地域の指導機関との相談の下で実施することをお勧めする。
化学農薬のみに依存しない次世代総合的病害虫管理の確立や有機農業の推進が強力に進められている(2)なかで、米ぬかによるカイガラムシ類防除はチャに限らず果樹や植木などで環境負荷の少ないカイガラムシ防除技術として使える可能性があるので、最寄りの植物医師®や関係機関と相談しながら導入するとよい。

米ぬか散布労力の軽減

米ぬかは手で直に、チャ株内に散布するが、防除後や降雨後のチャ株内が濡れているときに処理するとより効果的である。また、水に溶いた米ぬかを目詰まりに配慮した機械で散布することでも、手作業で処理した時と同様の効果が確認できた。しかし、この場合は手作業で処理した時のように米ぬかが枝幹にふんわり綿で覆われたように付着しないため、歩行幼虫の定着阻害効果が弱く、カビ類も十分に増殖しない可能性があり、米ぬかの効果の持続性の点で課題がある(1)。
クワシロの発生程度が低い茶園では、茶園の周辺部のみの防除でも効果がある。実際、クワシロの生息密度は茶園の外周部や通路沿いにおいて高いため、米ぬかの処理も発生の多い株や茶園の額縁状に処理することで防除労力を軽減できる。
また、米ぬかは吸湿すると塊になりやすく、処理時にチャ株内の幹枝に付着が不十分となることがある。そこで、砂状で固まりにくいナタネ粕120kg / 10a相当量を12月下旬の雌成虫発生期に枝幹に施用したところ、処理77日後の死虫率は63.8%となり、雌成虫の抑制効果(3)があった。米ぬか処理よりも省力的な防除法として、今後詳しく検討したい。

米ぬかの機械散布

鹿児島県霧島市の西利実氏は乗用型防除機を改造し、散水ノズルを使用してしっかりチャ株を濡らした後、米ぬかを水に溶かずに噴射する装置を開発し、クワシロ防除を効果的に実施している(4)。鹿児島堀口製茶有限会社ではこの機械を「ブランジェット」と名付けて、試験の様子をYouTubeで紹介している(図1)(5)。こうした乗用型防除機の利用は、米ぬか処理の労力問題の解決になると同時に、防除効果の向上も期待できる。今後の研究で乗用型防除機を利用した米ぬか処理によるクワシロの防除効果がさらに明らかになるものと考えられる。

  • 図1. 乗用型米ぬか散布防除機「ブランジェット(鹿児島堀口製茶有限会社)」 (文献5より使用許可を得て転載)
    動画の機械は、鹿児島県霧島市の西利実氏が開発したものと同一である。

他のカイガラムシ類や茶病害虫への効果

水に溶いた米ぬかを散布機により処理した試験ではチャトゲコナジラミの抑制についても確認している。2022年以降、ピリプロキシフェンマイクロカプセル剤によってクワシロが抑えられている地域では、ナシシロナガカイガラムシというこれまでマイナー害虫だったカイガラムシが増加し、チャ株を枯らす被害が目立つようになっている(図2)(6)。今後は、クワシロやツノロウムシ以外のカイガラムシ類や他の茶病害虫だけでなく、果樹や植木のカイガラムシ類に対する米ぬか処理の効果の検討が進み、有機農業の推進に寄与することを期待したい。

  • 図2. ナシシロナガカイガラムシと茶園の被害
    A. ナシシロナガカイガラムシの寄生により枯死したチャ株 
    B. 白いろう物質がはがれたナシシロナガカイガラムシ(死亡虫)
    C. ナシシロナガカイガラムシは葉縁にも寄生する
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iPlant|ISSN 2758-5212 (online)