渡邊 健
はじめに
サツマイモは「べにはるか」や「シルクスイート」をはじめとする高糖度品種の育成・普及により、焼きいもや各種スイーツとしての人気が高まり、全国各地で栽培されるようになった。特にその収益性向上により、耕作放棄地開墾圃場や各種野菜栽培跡地で栽培が増加している。連作されることが多いため、産地では病害虫の発生による品質低下などが問題となっている。その原因はカビ、バクテリア、ウイルス、センチュウなどの微生物や、各種害虫、生理障害など多岐にわたり、土壌伝染性病害や貯蔵病害などを引き起こしている。
病害虫の発生動向
近年、気候変動にともなう温暖化により各種病害虫の発生リスクが高まっている。特に気温や地温の上昇、異常降雨により土壌伝染性病害が多発生し、これまで南方で発生していた病害虫が北上して分布域を拡大しつつある。
1) サツマイモ基腐(もとぐされ)病
病原菌:カビ(糸状菌)の一種
地上部の枯死といもの腐敗を引き起こす新病害で(1)、2018年11月に沖縄県で初発生が報告されて以来、主に感染苗の流通によって全国の29都道府県で発生が確認されるに至った(2022年11月現在)(2)。なかでも九州の焼酎・デンプン原料用サツマイモの栽培地域(鹿児島県・宮崎県)を中心に拡大傾向にあり、被害も大きい。本病は罹病株の株元に形成された大量の胞子が風雨によって圃場内に拡散し、罹病残渣とともに圃場に残るため、一度発生すると防除は困難である。九州地域の基腐病発生拡大には、①サツマイモの栽培が粗放的連作(苗消毒、土壌消毒無し)であったこと、②感染種苗の人為的流通と③気候変動(線状降水帯や台風等による豪雨)、④土壌条件劣化(有機物の乏しい細粒の火山灰土は降雨後固まりやすく、圃場湛水しやすい)が大きく影響している。したがって、未発生地域では感染種苗を持ち込まないことが最も重要で、健全な種苗を用いて苗消毒を行い、発生圃場においては適正な残渣処理や土壌消毒、排水対策を講ずることが大切である(3)。本病の防除法としては、ダゾメット粉粒剤を用いた土壌消毒、ベノミル水和剤やトリフルミゾール水和剤等による苗消毒、アゾキシストロビン水和剤や銅水和剤等の茎葉散布がある。本病の病原菌は、Diaporthe destruens である。
本病の診断にはLAMP法による簡易診断キットが極めて有効である。圃場における罹病株の診断のみならず、種いもが腐敗していた場合の検査にも活用されている。
2) サツマイモ立枯(たちがれ)病
病原菌:細菌(放線菌)の一種
著しい生育不良となり、激発すると定植後1か月程度で枯死することもある。発病が軽微な場合でも、いもには黒色円形の陥没や奇形が生じる(1)。本病は高い土壌pH条件(pH(KCl) 5.6以上)や土壌の高温(32~35℃)、乾燥条件で発病が助長される。高畦マルチ栽培が主流であるため、畦内が高温・乾燥条件になりやすく、病原菌が存在する圃場では発生が多い。一度発生すると防除は極めて困難で、クロルピクリンくん蒸剤を用いたマルチ畦内土壌消毒が最も有効である。トラクタ等の大型農業機械に付着した土壌により容易に拡散するため、拡大抑制には、圃場衛生管理や作業体系に注意する。本病の病原菌はStreptomyces ipomoeae である。
3) サツマイモつる割(われ)病
病原菌:カビ(糸状菌)の一種
本病に罹病した種いもを用いると苗床で発病し、見かけ上健全な切り苗でも定植後に発病し、地際の茎が裂開したり、茎葉が黄化、萎凋する(1)。病徴が著しいと枯死し、土壌中の罹病残渣は土壌伝染の原因となる。品種間の抵抗性差異が顕著で、「ベニコマチ」が最も弱く、「ベニアズマ」は抵抗性中である。また、昨今育成された「べにまさり」や「シルクスイート」はやや弱く、「べにはるか」は比較的強い。本病の防除法としてベノミル水和剤を用いた苗消毒が有効であるが、近年、茨城県や千葉県でベノミル剤耐性菌の出現が認められており(4)、別系統薬剤の早期農薬登録が待たれる。本病の病原菌はFusarium oxysporum f.sp. batatas である。
4) サツマイモ白腐(しろぐされ)病
病原菌:カビ(糸状菌)の一種
罹病いもには、最初表面に小さな陥没した病斑が生じ、貯蔵中に腐敗がいもの内部に進展して腐敗部は白色で堅くなる(1)。いもの外観からは内部の腐敗が分からないこともあり、生いもの他、焼成後の焼きいもにおいても商品クレームの事例がある。土壌伝染性病害であり、病原菌は水分により活動が活発になるので、多雨・過湿な土壌条件で助長される。今後、気候変動により激化することが予想される集中豪雨や台風によって増加する恐れがある。本病に対する登録農薬はない。病原菌としてPythium myriotylum、P. scleroteichum、P. spinosum、P. ultimum の4種が報告されている。
5) ナカジロシタバ
本害虫は関東北部でも越冬できるようになり、圃場での被害発生時期が早まっている(1)。第1世代幼虫は5~6月、第2世代幼虫は7~8月、第3世代幼虫は9月~10月に発生し葉を食害する。第3世代の発生が最も多くなる。年により発生量が変動し、多発生年で防除を怠るとほとんどの葉が食害されることもある。葉を食べ尽くした幼虫は、餌を求めて移動するため、人家に侵入することもあり、不快害虫にもなり得るので、防除効果が高い若齢幼虫の時期に適切に防除する必要がある。ルフェヌロン乳剤、レピメクチン乳剤、メタフルミゾン水和剤、スピネトラム水和剤、フルベンジアミド水和剤、アラニカルブ水和剤などの登録農薬がある。
6) アワダチソウグンバイ
北米原産の体長3-4 mm前後の外来昆虫で、2000年に兵庫県で確認された(5)。本種は主に葉を吸汁して加害し、葉に白いかすり状の脱色斑点を生じ、糞に由来する黒色のすす症状を併発する(1)。症状が激しいと葉は枯死する。本種に登録農薬はないが、ナカジロシタバやハスモンヨトウ、アブラムシに登録のある農薬で同時防除が可能と考えられる。また、圃場周囲の雑草(セイタカアワダチソウ等のキク科雑草等)の防除を徹底し、周囲にヒマワリやキクを栽培しないようにする。
今後の発生拡大が懸念される害虫
沖縄県、小笠原諸島、奄美群島やトカラ列島等に発生しているサツマイモの重要害虫アリモドキゾウムシは、1995年に高知県で発生し(高知県では根絶)、2022年10 月に静岡県内で、商品の袋の中から発見された(6)。本害虫は、不妊虫の放飼や雄除去法による野生個体群密度低下により島単位での根絶に成功しているものの、発生地からの種苗の移動によって容易に未発生地域で発生してしまう。したがって、全国レベルでの分布拡大防止と防除対策が必要である。また、沖縄本島以南の琉球諸島に分布していた食葉害虫ヨツモンカメノコハムシは、1999年以降に九州、四国、本州(山口県、静岡県、東京都、埼玉県)でも確認されるようになった(7)。この他、サツマイモヒサゴトビハムシやヒルガオハモグリガの発生動向についても注意が必要であり、各都道府県の病害虫防除所が発表する発生予察情報を活用されたい。
引用文献
- 渡邊 健・西岡一也・林川修二(2021)防除ハンドブック サツマイモの病害虫、全国農村教育協会: 44 pp.
- 株式会社ニッポンジーンホームページ (2022年12月11日閲覧)
- 農研機構(2022)「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書」
- 島田 峻・赤井浩太郎・西宮智美・渡邊 健・有江 力(2017)茨城県におけるベノミル耐性サツマイモつる割病菌の発生、日植病報83:211(講要).
- 農林水産省(2005)「植物防疫病害虫情報 第77号」
- 静岡県病害虫防除所(2022)「令和4年度病害虫発生予察特殊報第1号」
- 埼玉県病害虫防除所(2021)「令和3年度発生予察情報特殊報第3号」