スワルスキーカブリダニ剤の導入に至った経緯
花きに限らず、施設栽培で単一作物を連作すると特定の薬剤を連用するため、抵抗性害虫が発生しやすい。また、農薬の散布は暑い施設の中でかなりの重労働であり、高齢化が進む生産者の負担も大きく、軽労働品目として高齢者にも取り組みやすい花き栽培では大きな障害である。
一方で宮崎県では野菜や果樹で天敵利用が普及しており、特にスワルスキーカブリダニ剤(以下、スワルスキー)は使用事例が蓄積されていることから、ホオズキでも利用が進んでいる。
スワルスキーの利用法と効果
スワルスキーは、ミナミキイロアザミウマに有効な天敵であるが、成虫は捕食できないため、成虫を防除できる薬剤か他の天敵等を組み合わせる必要がある。また、ほ場内のミナミキイロアザミウマ成虫の密度が高いと、成虫の寿命が尽きるまで被害が発生し続けるため、放飼までにほ場内の密度を限りなくゼロに近い状態しておくことが重要である。
したがって、図2のように栽培初期は薬剤による防除を行い、スワルスキーは5月上旬に放飼するのがよい。その際はパック製剤(図4)を利用する。設置時はホオズキ上には餌になる害虫密度が「ゼロ」に近い状態であるが、害虫ではない餌がパック内にあることでスワルスキーの生存率と増殖を助ける。また、栽培期間中に使用する農薬、特に水の散布による影響を避けるシェルターとなり、スワルスキーへの影響が少なくなるうえに(1)、放飼時の労力を低減することができることが利点である。
ホオズキ栽培では倒伏防止のためにフラワーネットを用いることが多いが、糸がマス目状になっているため放飼後にパック製剤から出てきて分散していくスワルスキーの移動経路となる。また、ホオズキは葉が大きく、栽培後期まで葉を残すため、カブリダニの定着場所を確保し、生存するための湿度を株全体に維持することができる(図5)。
6月下旬には非選択的農薬であるアバメクチン乳剤(商品名:アグリメック)を散布する。この時期に行うのは、果実の着色のためのホルモン剤散布以降は薬害の恐れがあり薬剤散布を避けなければならないからである。また、出荷時にスワルスキーが混入すると異物としてクレームの原因となるため、これを除去する必要がある。非選択的農薬の散布から出荷までの約1ヶ月間でほ場内のミナミキイロアザミウマが増えることがないようにするには、スワルスキー放飼前の防除と、物理的防除として防虫ネットを設置してハウス周辺からの害虫の飛び込みを防止するとともに、害虫の発生源を減らすため施設内外の除草も実施する必要がある。このように、ホオズキでは薬剤防除と物理的防除、およびスワルスキーによる生物的防除の役割が明確であり、これらの組み合わせにより高い防除効果が得られる。
語句説明
パック製剤:捕食性の天敵を餌とともにパックに封入したもの。徐々に天敵が外に出てくるため、環境の影響を受けにくく安定した定着性がある。
フラワーネット:切り花の倒伏防止に用いる格子状の網のこと。
おわりに
切り花用ホオズキ栽培ではミナミキイロアザミウマ以外の害虫の発生も問題となっているため、野菜や果樹における防除法の知見を導入してゆく必要があり、花き独特の作型や栽培方法に対し適用できるよう、適切な製剤と使用法を選択し、防除体系を改善していく必要がある。